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試合SS一覧 このページではダンゲロスSS5参戦キャラクターのマッチング表、および投稿された試合SSへのリンクを表示します。 各試合SSは、合計文字数の少ない試合順に並んでいます。 決勝戦 試合SS キャラクター名 投票結果 決勝戦:【洋館】STAGE ファイヤーラッコ 【洋館】結果 恵撫子りうむ MVP投票結果発表 準決勝戦 試合SS キャラクター名 投票結果 準決勝戦:【希望崎学園】STAGE ファイヤーラッコ 【希望崎学園】結果 モブおじさん 準決勝戦:【体内】STAGE 恵撫子りうむ 【体内】結果 徒士谷真歩 準決勝戦ベストSS投票結果 第2回戦 試合SS キャラクター名 投票結果 第2回戦:【闘技場】STAGE ファイヤーラッコ 【闘技場】結果 七月十 大隈サーバル 第2回戦:【戦場跡】STAGE 井戸浪 濠 【戦場跡】結果 暗黒騎士ダークヴァルザードギアス 恵撫子りうむ 第2回戦:【オフィスビル街】STAGE 雪村桜(初号機) 【オフィスビル街】結果 澪木祭蔵 モブおじさん 第2回戦:【夢の国】STAGE 真野 金 【夢の国】結果 叢雨 雫 徒士谷真歩 第2回戦ベストSS投票結果 第1回戦 試合SS キャラクター名 投票結果 第1回戦:【浮島】STAGE チョコケロッグ太郎 【浮島】結果 ファイヤーラッコ 第1回戦:【貨物列車】STAGE 雪村桜(初号機) 【貨物列車】結果 舞雷 不如帰 第1回戦:【天国】STAGE 澪木祭蔵 【天国】結果 則本 英雄 第1回戦:【山岳地帯】STAGE 井戸浪 濠 【山岳地帯】結果 等々力 昴 第1回戦:【博物館】STAGE 七月十 【博物館】結果 佐渡ヶ谷 真望 第1回戦:【古城】STAGE 林健四郎 【古城】結果 大隈サーバル 第1回戦:【豪華客船】STAGE 童貞男 【豪華客船】結果 モブおじさん 第1回戦:【雪原】STAGE 九暗影 【雪原】結果 真野 金 第1回戦:【巨人の家】STAGE 女女女 女女 【巨人の家】結果 叢雨 雫 第1回戦:【ピラミッド】STAGE 偽花火 燐花 【ピラミッド】結果 徒士谷真歩 第1回戦:【地獄】STAGE 暗黒騎士ダークヴァルザードギアス 【地獄】結果 阿呂芽ハナ 第1回戦ベストSS投票結果
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魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 第十三話「闇の剣士の帰還」 時空管理局それは数多の時空間の世界を法で総べる最大規模の法的機関である、そして時空管理局本局は管理局の大本営として次元の海に居を構えていた。 機動六課を離れたバージルは大型転送ポートにて元の世界に帰るために管理局本局にその身を置いていた。 転送ポートの使用時間まであと僅か、バージルは待ち時間を本局内のカフェテラスにて一人コーヒーを飲みながら読書をして時間を潰していた、そんな彼の前に一人の女性が現れる。 「この席よろしいかしら?」 バージルの向かいの席に緑の長髪を後ろで結んだ女性が立つ、服装から提督位の局員であると易く想像がつく、これが普通の局員であったら敬礼と敬語で返すのが道理であったが彼はなんでもない風に彼女に答えた。 「別に他にも席はあるだろうが。まあここが良ければ好きにしろ」 「それじゃあ失礼しますね」 そう言って女性は対面の席に座り緑茶を注文すると運ばれたその緑茶に……女性は砂糖とミルクを注ぎだしたのだ、さしものバージルもこの行為には顔を引きつらせた、今までの彼の常識と緑茶に対して抱いていた意識が根底から覆された。 (この世界の人間はこんな風に緑茶を飲むのか…) 一人驚愕を覚えるバージルにその女性が口を開いた。 「この店で時間を潰しているみたいですけど、転送ポートの時間待ちですか?」 「そんな所だ」 「こんな時期にどちらへ? よければ教えて頂けませんか?」 「俺の事なら八神から聞いてよく知っているだろうが、リンディ・ハラオウン総括官」 その女性は時空管理局総務総括官リンディ・ハラオウン、六課後見人でもありクロノとフェイトの母でもある六課隊長陣とは長年の付き合いを持つ管理局の高官であった。 「あら…やっぱりばれてましたか。はじめまして管理局総括官のリンディ・ハラオウンです」 リンディは驚かそうとしたのが失敗して、まるで少女のようにバツの悪そうな顔をした。 「それで管理局の高官が一介の嘱託魔道師になんの用だ?」 「一応あなたの出身世界を探したのは私とクロノですから、最後にあなたの案内を私が買って出たんですよ」 「そうか」 「バージルさん…一つ聞いて良いですか?」 「なんだハラオウン総括官、六課に戻れという話なら受け付けんぞ」 「そんな事は言いませんよあなたの選択はあなたが決める事ですから、ただ少し気になって……あなたは何の為に今、元の世界に戻るんですか?」 「お前に教える道理はない」 「そうですか…」 俺が元の世界に戻る理由など一つだけだ今度こそダンテからフォースエッジとアミュレットを奪いテメンニグルを起動し魔界への道を開く、今の俺の力ならば半日とかからずに終わるだろう。 それが俺の全てだ、父の力を得る為に完全な悪魔へと成る為に、それを成す為ならばこの世界で得たものなど一片の価値も無い、俺を師と呼び教えを仰いだ者も仲間と呼んだ者も……そして兄と慕った者も。 求め続けた絶対最強の頂が目の前にある、だが俺の心には微塵の昂ぶりも無かった、あるのは空虚な虚脱感と共に手にかかる重み……それは“あの時”俺の手を握り締めた少女の手の感触。 握り返せば潰れてしまいそうな弱弱しいそして柔らかく温かい手の感触だった、その温もりが何故か今この手に蘇ってきた。 『ギルバ嘱託魔道師、転送ポートの準備がもうすぐ整います受付までお越し下さい』 転送用トランスポーターの受付からリンディ・ハラオウンと共に準備を待っていた俺に放送が入った、俺は少ない荷物を詰めた小さな鞄と閻魔刀の入った刀袋を持ち転送ポートまでの短い廊下を歩く。 「あなたの出身世界は管理外世界ですから、転送の為にある程度は人目につかない場所に特定してからの転送になります、それと…」 リンディ・ハラオウンが俺に管理外世界への転送について説明をしてきたが既に知っている事だけに大して興味もなく聞き流した、そして転送の説明を終えて俺と分かれる際にリンディ・ハラオウンは言葉を残していった。 「バージルさん、最後に一つだけ良いですか?」 「何だ? 手短にしろ」 「あなたがどんな選択を選ぶにしろ絶対に自分は偽らないで…後悔だけはしないで下さい、きっと六課の皆もそう望んでいますから」 「ふんっ、下らん事を……それでは世話になったな」 「ええ、さようなら」 そう言い切った俺はリンディ・ハラオウンと別れ歩き始めた、転送の予定時間は間近だった。 「あれが例の彼?」 転送ポート受け付けに向かったバージルの後姿を見送るリンディに声をかけたのは彼女の古い親友レティ・ロウラン提督だった。 「ええ」 「それにしても世話になった六課の皆が大変だってのに薄情な人ね…」 「あの人にもきっと事情があるのよ、でも…」 六課の人間を冷たく見捨てたバージルに毒を吐くレティを諌めながらリンディはバージルの目を思い出して思わず呟いた。 「あんな悲しそうな…辛そうな目で何処へ行くのかしらね…」 その時ミッドチルダに現れた聖王のゆりかごと共にスカリエッティが管理局の全ネットワークに通信映像を送ってきた。 無能の狂った科学者が聖王のゆりかごとか言う兵器の映像と共に相変わらず訳の分からん理屈を局の通信に送ってきた、こんな自己満足の通信を入れるなど愚かの極みだな…俺は改めて無能な愚者だと感じた。 その映像と演説を冷めた目で眺めながら転送ポート受付に足を進める俺に見覚えのある少女の姿が見えた、それはゆりかご内部の玉座に括り付けられたヴィヴィオの姿だった。 「生きて…いたのか」 思わず俺は口を開いた。 スカリエッティが管理局に送ってきた通信映像でゆりかご内のヴィヴィオが映し出される、ヴィヴィオは玉座の妙な装置に括られ苦痛と恐怖に幼い顔を歪めていた、そして悲痛な叫びを漏らす。 『うわあーん いたいよおー! こわいよー!!』 バージルは思わず目を逸らした、感じる筈の無い鋭い痛みが彼の胸を貫き全身を駆け巡り鼓動が高鳴る。 (何故俺は目を逸らす!? この胸に走る感覚は何だ!? 俺が動揺しているとでも言うのか…そんな事はありえん!!) 自身の動揺を必死に抑えながらバージルは顔色だけは変えずに転送ポート受付に向かって歩き続ける、その彼の耳に幼い少女の悲痛な叫びは響き続ける。 『ママー ママー!!』 (例えあの娘が生きていようとも俺には関係ない…俺は今度こそ手に入れる…最強の力を親父の力を。それに比べればあの娘の命など…) 強い自制の心と凍りついた理性で転送ポート受付の直前まで来たバージルの足が次の瞬間に響いた声に止まった。 『たすけてええ おにいちゃああん!』 バージルに助けを求めるヴィヴィオの声が通信を介して響き渡り、彼の全てを止めた…それは足だけでない今まで冷静に働き続けた精神はおろか心臓や周りの空気さえ止まったかのような錯覚だった、その助けを求める声はどんな拘束魔法よりも彼の心と身体を縛った。 「兄と呼ぶか…この俺を…」 バージルは自分でも気づかぬ内に手を強く握り締め歯噛みしながら呻くように呟く。 「助けを呼ぶか…この俺に」 思い出されるのは瀕死の重傷を負っても血の繋がらない家族の助命を請うた隻眼の少女。 “例え血の繋がりなど無くとも…あの子達は私の家族ですから” 思い出されるのは母を無残に殺されながらも憎悪に穢れず、その手の力で希望を語った少女。 “私は魔法を…泣いてる誰かを助ける為に使っていきたいから” そして何より思い出されるのは彼を仲間と友と呼んだ燃え盛る炎のように熱い烈火の将の言葉と曇りなき瞳。 “バージル…守れるのは、取り戻せるのは今だけだ” “自分の心まで偽るのか…私に飾るなと言ったのはお前だぞバージル!! 人の心まで捨てるか!!” “…お前は人間だバージル…不器用で弱くて強い…優しい人間だ” 彼女達の言葉と共にバージルの脳裏を駆けたのは家族を失った古い過去の記憶そして彼を兄と慕った幼い少女の姿。 求め続けたその力は何の為だったのか誰の為だったのか今ではもう彼自身にも分からない、ただ分かるのは今の自分の手には何かを誰かを守る力を持っているという事だった。 バージルは烈火の将に殴られた頬に手を当てる、ある筈のない痛みと熱が心の一番奥に染み込んでていくのを感じた…。 そして半魔の剣士は魔と闇に彩られた冥府魔道に背を向けて歩き出す、彼の助けを待つ者達の下へと。 夜天の王とその仲間達が紡いだ絆が、烈火の将の与えた熱き心が、無垢なる少女の悲痛なる慟哭が、凍りついた闇の剣士の心に二度と消えない炎を灯す。 「全隊後退っ!! 第三次防衛ラインまで下がって増援部隊の到着まで防衛ラインの死守や!!」 ゆりかごから射出されるガジェットと空を埋め尽くす悪魔の圧倒的な物量に、接近する事さえ出来ずに航空魔道師の部隊を指揮するのは機動六課部隊長である八神はやてであった。 はやては長距離砲撃“フレースヴェルグ”“ラグナロク”広域空間攻撃“デアボリックエミッション”等の強力な魔法の数々により敵の数を半減させる。 しかし数万を超える敵を掃討する事はできず、航空魔道師部隊の支援砲火も虚しく遂には敵の接近により敵味方入り乱れた乱戦へとなった、そして状況は混沌を極める。 「あかん! 敵の数が多すぎや…中に入ったなのはちゃんとヴィータの救援にも行かれへん!! せめて内部に突入できれば…一体どないしたら…」 悪化し続ける状況に歯噛みしながらはやては飛び交うガジェットと悪魔を射撃魔法で落としていく、例えリミッターの解除されたSSランクの魔道騎士のはやてとて数万を超える敵を限界ギリギリの出力で攻撃し続ける戦いに疲労はピークに達しかけていた。 過酷な戦況に息を切らせたはやての背後に黒い影が迫る、大鎌を振りかぶった悪魔ヘル・ヴァンガードが彼女のその首筋へと死の一閃を走らせた。 「えっ…」 振り向いた時には既にその死の刃は彼女の眼前に迫っていた、もはや防御も回避も不可能な攻撃にはやては自分の無力を思う。 (もう間に会わへん…命に代えても皆を助けようと思っとったけど何もできずに終わるんやな…ゴメンな皆、私先に逝ってまうわ…) しかしその死神の刃がはやての柔い首を裂く事はなかった、彼女を救ったのは魔を喰らう妖刀その名を閻魔刀、振るうのは半魔の血肉を持つ魔剣士バージル。 「バージル…さん」 「どうした八神。この程度で諦めては夜天の王の名が泣くぞ」 バージルはそう言うや否や閻魔刀を斬り返し鎌を持つ悪魔を両断、さらに背に掛けた魔剣のデバイス、フォースエッジ・フェイクを周囲の敵に投げつけるそれは高回転で対象を追尾する魔剣の技ラウンド・トリップ。 次いで鞘に戻した閻魔刀に莫大な魔力が収束し鍔鳴りと共に周囲数百メートル以内の敵が大量の空間斬で刻み落とされる、広範囲に連続で空間斬を起こす閻魔刀を用いた技の最高峰“広域次元斬”である。 嵐のように掃射される幻影剣の刃も加わり乱舞する魔技の圧倒的な殲滅力に瞬く間に周囲の悪魔とガジェットは消え失せる。 「ど、どうしてここに? 元の世界に帰ったんじゃないんですか?」 周囲の敵の一掃された空で、はやては目の前に現れたこの世界から去った筈の男に目を丸くしながら口を開いた。 「予定変更だ。俺はまだ未熟だからな今の魔法知識では足らん、だから八神…」 「えっと…はい」 「再契約だ」 はやての目を見つめるバージルの瞳にはもう以前の殺気や力への渇望に憑かれた悲しみは欠片もなかった。 「…それじゃあ、私から再契約の条件が一つあります」 「何だ?」 「人は絶対に殺さへんって約束して下さい」 「断ると言ったらどうする?」 「全力でぶっ倒して言う事聞かせます」 「出来るとでも思っているのか?」 「この超美少女を舐めとったら大火傷やね」 互いに吐いた皮肉めいた冗談に二人は苦笑する、そこには以前の剣呑さは無くあるのは信頼しあった仲間同士の目に見えぬ強き絆だった。 「いいだろう。代わりと言ってはなんだが俺からもお前に再契約の条件がある」 「何ですか? 今なら大サービスでスリーサイズだって教えます! プロポーズだって受けたげますよ~♪」 「生きろ」 「えっ? “生きろ”って…」 「この先どんな強敵、逆境が来ようとも決して死ぬな生きて帰れ。お前は生も死も急ぎすぎだ」 その言葉に込められた思いにはやては胸に熱いもの感じた、飾らない優しさが彼女の全身を満たしていった。 「…了解や。これで契約完了やね」 「ああ。それともうすぐこちらにリンディ・ハラオウンから“荷物”が届く…」 「リンディさん!? “荷物”って一体なんですか?」 「今は説明する時間が無い。とにかく届いたら最前線に送り込め」 「分かりました…」 「俺はあの泥舟を沈めに行って来る。六課の者は誰か突入したか?」 「なのはちゃんとヴィータがもう進入してます。ゆりかごに行くんでしたらデバイスに突入した経路と今までの情報も送っときますね」 「分かった。ついでだがこれは置き土産だ取っておけ」 その言葉と共にはやての周囲に10本の幻影剣が攻勢防御として展開され彼女の身体を守るため配置される、10本全ての幻影剣には凄まじい魔力が込められていた。 「バージルさん! こんな所で私に高い魔力使ったら…」 「気にするな。では行ってくる」 そう言い残し魔剣士は救うべき少女の下へと連続空間転移を行い姿を消した、魔剣士の消えた空で夜天の王は彼との間に交わした誓いを胸に、再び心に熱い炎を宿す。 「あかんなあ~。あないな約束したらもう簡単に死ねへんわ」 はやての周囲に再び敵が集い始める、しかしもはや彼女が負ける要素など微塵も在りはしない。 周囲の悪魔達に不敵な笑みを向けながらはやての魔力が空気中に溢れる程に高まっていく、その圧倒的な力に魔界の悪魔達ですら恐怖を感じ震え始める。 「もう負ける気なんかせえへん! 夜天の王に歯向かった事を地獄で後悔しいや!!」 魔剣士の残した青き魔力の刃で守られ夜天の王が魔界の亡者を滅ぼさんと背の黒き翼を翻す。 ゆりかご内部に突入しメインの動力路を目指すヴィータは一人で群がる敵を叩き潰していた、しかしガジェットに傀儡兵さらには無数の悪魔を相手に最強クラスのベルカの騎士も傷つきその紅い騎士甲冑に血の朱を混ぜ始める。 「くそっ…全然減らねえ。数が多すぎる…」 ヴィータの前に幾度目になるのか、塵を媒介に低級悪魔ヘル・プライドを従えた大鎌の死神ヘル・ヴァンガードと天使のような白き翼を持つ悪魔“フォールン”が現れた、ヴィータは重ねた消耗の為にカートリッジを使用してデバイスに魔力を満たす。 「カートリッジは惜しいけど、ここで死んだら意味がねえ。行くぞアイゼン! ラケーテンハンマーッ!!」 魔力を込めた破壊の大槌の一撃が独楽のように回る紅い騎士の手により放たれる、轟音を響かせ悪魔共を塵に還すヴィータだが攻撃を終えた一瞬の隙に敵の接近をゆるしていた。 「なっ!?」 ヴィータに放たれたのは強い粘性を持つ強靭な蜘蛛糸、数体の蜘蛛型悪魔アルケニーがその糸で彼女を絡め取り身動きを封じた。 「くそっ! こんなもんすぐに千切って…」 ヴィータが言葉を言い切る前に既に蜘蛛型悪魔はその鎌のような足で彼女を殺そうと迫っていた、そんな時懐かしい声が彼女の耳に届いた。 「いつもの威勢はどうした鉄槌?」 そして高速移動と共に放たれた閻魔刀の疾走居合いで悪魔を斬り裂きながら闇の剣士が救援に駆けつけた。 「お前…バージル…」 驚くヴィータをよそにバージルは眼前の敵を刻みながら幻影剣で彼女の身体を縛る蜘蛛糸を切断した。 ヴィータの驚愕が冷めた時には群がる有象無象の敵は塵と鉄屑へとその姿を変えていた。 「おい…バージル…お前なんで戻って来てんだよ?」 「なんだ鉄槌、助けはいらなかったか?」 バージルの意地の悪い質問にヴィータは不満そうな顔をして答える。 「…お前って性格悪いよな意外と…」 二人がそんな会話をする中、正面にまた敵が無数に現れる、ガジェットの中には大型のⅢ型が悪魔の中には比較的位の高いヘル・ヴァンガーやフォールンが多く混じっていた。 「少しどいていろ鉄槌」 「“どいていろ”ってお前何するつもりだよ。ここは二人で…」 「お前はこの先に用があるのだろう? ならば力は温存しておけ」 バージルはそう言うと抜刀の構えから閻魔刀を抜いた、妖刀の刃が空間を抉り“広域次元斬”により壁や床ごと前方の敵が斬り伏せられる。 空間ごと斬り裂く数百の死の閃きを免れた敵の残党にフォースエッジ・フェイクと閻魔刀の二刀を構えたバージルが間をおかずに踊りかかる、さらに幻影剣の射出を加えた追撃はさながら嵐のような激しさで敵を掃討する。 「終わったぞ鉄槌。早く行け」 ヴィータが自身のデバイス、グラーファイゼンに予備カートリッジを再装填するのが終わる間もなくバージルは敵を掃討し閻魔刀を鞘に戻していた。 「あたしは動力炉をぶっ壊すけど、お前はどうすんだよ?」 「俺は中枢で指揮をとる者を探してから玉座の間に向かう。頭を叩けば少なくともこの泥舟も玉座の装置も止められよう。ところで高町はどうした?」 「ヴィヴィオを助けに行ってる」 「そうか」 最低限の言葉を交わして二人は道を分かれようと背を向け合う、その時ヴィータが背中越しに振り向き声をかけた。 「あのさ…バージル」 「なんだ?」 「助けてくれて…ありがとな…それと……おかえり」 「ああ」 恥ずかしげに言葉を吐いた鉄槌の騎士は少し頬を赤く染めるそして彼女は再び果たすべき目的に向かって飛び立ち、闇の剣士はこの狂った宴を催す主を断罪し運命に翻弄される少女を救うべくその足を戦船の奥深くへと進めた。 高町なのはが玉座の間で古代ベルカ王族の固有スキル“聖王の鎧”を発動したヴィヴィオと交戦をする最中、彼女の放ったサーチャーが最深部制御室でゆりかごを操るナンバーズ4番クアットロを発見した。 「…だけどここは最深部…ここまで来れる人間なんて…」 自身の身の安全が脅かされ恐怖に身体を震わせるクアットロ、本能で恐怖を感じても彼女の理性は冷静に状況を熟慮する。 (そうよ、あの女は玉座の間にたどり着くまでにアレだけの悪魔とガジェットを倒したんだからここまで壁を抜いて攻撃する余力なんて…) 現状を確認するクアットロの背後から聞き覚えのある冷たく殺意に満ちた声が響いた。 「確かに人間なら来れんだろう…人間ならな」 その言葉に冷徹に働き続ける筈のクアットロの頭脳が凍りつく、その声は以前自分を殺そうとした悪魔の声だった。 「ああ…あ、あなたが。なんでここに?」 振り返ったクアットロの目に映ったのは殺気はおろか瘴気すら立ち上らせて彼女を睨む闇の剣士バージルだった。 「俺の転移魔法ならこの程度は造作も無い、高町のサーチャーもあったしな。それよりも随分とあの二人につまらん事をしてくれたみたいだな…」 制御室のモニターに映るなのはとヴィヴィオを見ながらバージルは静かにクアットロに話しかける、彼は現在の状況をデバイスに送られた情報で知っていた、クアットロの行った悪行と悪意に満ちた言葉の数々も… 「ま…ま、待ってください。あなたが私たちに敵対する理由なんてもうないでしょう? だったら私たちと…」 その言葉を言い切る前にクアットロのつま先に魔力で作られた刃、幻影剣が刺さった。 「がああっ!!」 流血する足を押さえながら悶えるクアットロをバージルはまるでゴミにたかる蝿でも見るような目で見下ろしていた。 「どうした? もう終わりか? もっと聞かせてみせろ貴様の得意な下らん演説を…」 「ああ…ま、待ってください…私は…」 次は手の甲と肩が抉られた、クアットロは悲鳴を上げてのた打ち回り血を床に塗り始める、バージルはそんな彼女に一歩ずつ近づきながら幻影剣の射出を行った。 幻影剣はクアットロの膝を肩を肘を耳を様々な場所を少しずつ丁寧に貫き抉り裂いていく。 「まってください、た、助けてください、お願いだから…お願いだから殺さないでええ!」 クアットロは涙と鼻水と血で顔を汚しながら死なない程度に全身に付けられた裂傷を手で塞ぎ、地を這いながら命乞いをした。 「“助けて”…か」 バージルは歩みを止めてクアットロの言葉を反芻する、そして彼の顔色を伺っていたクアットロに目を合わせた、それは笑顔だったしかし目は一切笑ってなどいなかったし優しさも欠片も込められてはいなかった。 「お前は…」 言葉を紡ぎながらバージルは腰の鞘に納められた閻魔刀に手を伸ばす。 「…そう言ったあの娘に…」 そしてクアットロの目に圧倒的な絶望が色付き始める、バージルの手は緩慢ですらある速度で閻魔刀の柄にかかる、動作が遅いほどクアットロには深い恐怖が刻まれていく。 「…何をした?」 次の瞬間閻魔刀の鍔が甲高い金属音を奏でた、常人の目には追うことさえできない居合いの刃が閃いた。 「えっ…」 驚きの声を上げると共にクアットロが最初に感じたのは“熱”首筋が妙に熱いと感じて手で触れるとヌルリとした感触と共にそこに付いていたのは赤、自分の身体から流れた生命の色だったそして彼女の意識は深い闇の中に落ちて行った。 「少しやりすぎたな…」 バージルは目の前の惨状に自戒の言葉を口にする、彼はクアットロを殺してはいなかったのだ、最後に放った閻魔刀の居合いは風圧のみで軽く首の皮を裂いただけだったのだが恐怖のあまり気絶させてしまった。 「さてと、この木偶をさっさと叩き起こしてあの状態を止めねばな…」 モニターに映る聖王の鎧の力で暴れるヴィヴィオに目をやりながらバージルは静かに呟いた。 「くっ…」 ヴィヴィオを救うため玉座の間に来たなのはだが聖王の鎧を纏ったヴィヴィオの攻撃に苦戦を強いられていた、ゆりかご内でのガジェットや悪魔との戦闘に加えてブラスターモードの開放で体力魔力共に消耗し…なによりヴィヴィオと戦うという事が彼女の戦意を削いでいた。 (サーチャーに感じたのは“あの人”の魔力? だったら迂闊に壁抜きはできない…こうなったらあの技でヴィヴィオを…) 胸中で助けに来たであろう魔剣士を想いなのはは最後の手段である最強の技を使う算段をする、その時玉座の間に転移魔法の発する空間の歪みが生じ青いコートを纏った闇の剣士がその手に敵の一人を下げて現れた。 「バージルさん!」 「バージル…お兄ちゃん」 なのはとヴィヴィオは突如現れたバージルに共に驚愕を覚えて口を開いた、そしてバージルはバインドで簀巻きになっているクアットロを邪魔にならぬように横に放って二人に近づいた。 「来ないで!!」 ヴィヴィオの口から出たのは拒絶の言葉、そしてヴィヴィオは目にいっぱいの涙を溜めてバージルを見つめる。 「分かったの私…もうずっと昔の人のコピーで…なのはさんもフェイトさんも本当のママじゃないって…バージルさんは本当のお兄ちゃんじゃないって…」 そのヴィヴィオの言葉にバージルは瞳を悲しみに染めて一歩ずつ彼女に近づいて行く。 「来ないで! もう私の事は放っておいて!!」 近づくバージルにヴィヴィオは高出力の魔力を込めた拳を叩き込んだ、なのはの防御すら破壊するそれをバージルは何の防御手段も用いずに脇腹に受けた。 「がはあっ!」 バージルの身体から肉を裂き骨を折る異音が響く、折れた肋骨が肺を引き裂き彼の口元を赤く染める、魔力ダメージも加えれば常人なら重症必至の傷であった。 「あ…あああ」 口から血を吐くバージルと彼の脇腹に突き刺さった自身の拳を見てヴィヴィオは制御できない自分の力にまた悲しみの涙を流す、しかしバージルは突き刺さったその拳にそっと手を置きヴィヴィオに優しく話しかけた。 「こんな事を言った者がいた“血が繋がらずとも家族はいる”とな…」 涙に濡れるヴィヴィオの瞳を見つめるバージルの目には憎悪も怒りも悲しみもなかった、あるのは深い優しさと慈しみの想い。 「お前が望むなら…高町はお前の本当の母になろう…そしてもしお前が望むなら……」 バージルは一度言葉を心中で噛み締めると真っ直ぐにヴィヴィオの瞳を見据えて言葉を紡いだ。 「…俺はお前の兄になろう」 その言葉にヴィヴィオは濁流のように涙を零しながらまた魔力を暴走させ始める。 「うわあああああ!!」 制御できない魔力を周囲に撒き散らし暴走するヴィヴィオをバージルは優しく抱きしめて制する。 「高町。早く俺ごと撃て」 「でも! そんな事したらバージルさんまで…」 「構わん、俺ならお前の砲撃程度は耐えられる。敵からの情報では魔力ダメージで体内のレリックコアを破壊するのが最善だそうだ。なによりも……親ならば子を助けてやれ」 「…分かりました」 なのははそう言うとブラスタービットを展開しブラスターモードを完全に開放、最強の砲撃魔法“スターライトブレイカー”の準備に入る。 「これが私の全力全開! スターライトブレイカー!!!」 閃光がバージルとヴィヴィオを貫き周囲を光でを満たした、砲撃で大きく抉られた玉座の間のクレーターの中に元の幼い姿になったヴィヴィオとバリアジャケットを焼け焦がしたバージルの姿が煙を割って現れる。 「ヴィヴィオ!」 「こないで…」 なのはがそのヴィヴィオに慌てて駆け寄ろうとするがヴィヴィオはそれを制する。 「ひとりで…たてるよ…」 ヴィヴィオは一人ふらつく足で立とうとするが、その小さな身体は大きな手で優しく支えられた。 「子供が無理をするな、お前は一人ではないのだから」 「おにいちゃん…」 膝を突いたバージルが優しくヴィヴィオの身体を支える、ヴィヴィオはバージルに支えられ駆け寄ったなのはに抱き上げられる。 「ヴィヴィオ…」 「ぐすっママ~おにいちゃ~ん」 「まったくそんなに泣く奴があるか…」 バージルは泣きながらなのはに抱き上げられるヴィヴィオから近づいた気配に顔を向ける。 「遅いぞ。もう全て終わっている」 バージルが声をかけたのは救援に駆けつけたはやてとリィンであった、はやて達は動力炉を破壊して消耗したヴィータを助け、なのはとバージルを救うべく二人の下に全速力で飛んで来たのだった。 「あちゃ~。活躍する見せ場はもう無いみたいやな~」 「ザンネンです~」 「そんなに活躍したいならそこの木偶を運べ」 残念そうにするはやて達にバージルは先ほど横に放ったクアットロを指差した、はやてはそんなクアットロに近づいてデバイスでツンツンとつついて生存を確認してから苦笑してバージルに向き直る。 「ピクピクしてますよ~生きてるみたいです~」 「とりあえず約束は守っとるみたいやね~。でも女の子にあんまヒドイ事したらあかんよ~」 「手加減はした。息があるだけでも感謝しろ」 そんなはやて達にバージルは相変わらずの答えを返す、その時玉座の間の扉が突然閉まり警報がゆりかご内部に鳴り響く。 「これは一体!?」 「なんや? もしかして“お約束”の自爆フラグかいな! ベタ過ぎて突っ込めんわ…」 「自爆に巻き込まれて終わるなんてB級映画の脇役みたいな最後は嫌です~」 なのは達が驚く中、バージルは床に転がっていたクアットロの口に猿ぐつわとして噛ませていたバインドを緩めて質問を投げた。 「おい木偶これは何だ? 早く答えんともう2・3回抉るぞ」 「は、はいいい! こ、こ、これは船の制御と動力関係の異常に聖王の器の喪失でゆりかごが自衛モードに入ったんです、こ、このままだと自動的に衛星軌道上に出て地上を攻撃します」 「なんとかしろ。殺すぞ?」 「む、む、む、む無理です、聖王の器がいないと細かい制御は不可能に設定されてるんです」 「使えんゴミが…おい八神。とりあえず早くここから離脱するぞ」 バージルは彼の容赦の無い尋問っぷりに顔を引きつらせるなのは達に向き直り脱出を促す。 「でもバージルさん。AMF濃度がかなり高くなってます! このままじゃ魔力結合が出来ませんよ~」 リィンが現状を確認し焦りの声を上げるがバージルは静かに閻魔刀に手をかけていた。 「お前らのデバイスと悪魔や閻魔刀の力を一緒にするな…少しさがっていろ」 そう言うと極大の魔力がバージルの手に収束すると共に鞘に刀身を埋めていた閻魔刀が閃き空間を大きく斬り裂き抉った、そして玉座の間の天井が妖刀に割られて青い空を晒す。 「俺に掴まれ。飛ぶぞ」 「分かりました」 「うん。おにいちゃんがんばって」 「はいです~」 「了解や! でもバージルさん、美少女が掴まるからってセクハラはダメやからね~。でも私やったらちょっとくらい乳揉んでもええよ~♪」 なのは達からそれぞれの返事が返りバージルは魔力の結合のできないなのは達(+木偶人形1体)を抱えて割れた天井からゆりかご上部に飛び出した(ちなみにクアットロは網にかかった魚よろしくバインドによる簀巻き状態で吊るされて運ばれた)。 「まだAMFが重いみたいやね。とりあえずヘリの回収でも待った方がええみたいや」 はやてがそんな声を上げた時、全員をゆりかご上部まで運んだバージルが膝をつき倒れかける。 「「「バージルさん!」」」 「おにいちゃん!」 なのは達が膝をつくバージルに慌てて駆け寄る、いくら半魔の血を持つ魔剣士といえここまで1000体以上の敵を斬り伏せ高町なのはの最強砲撃魔法を受けた身体は過度の消耗に力を幾分か失っていた。 「大事ない。気にするな…」 バージルは心配する4人に答えながら立ち上がる、その時そんな彼らに射撃魔法の雨が降り注ぐ。 「くっ…新手か!!」 「リィン大丈夫か!?」 「はいです!」 「ヴィヴィオ、しっかり掴まって…きゃああっ!!」 なんとか防御魔法を展開する彼らに高速移動で何者かが接近しヴィヴィオを抱えるなのはを攻撃、ヴィヴィオをすかさず奪い去り距離を取った。 「貴様…生きていたのか……アーカム」 バージルは攻撃が止み煙の立ちこめる中で呻くように口を開き少女を奪い距離を取った破戒と狂気の司祭を睨みつけた。 「お久しぶりだねバージル。また会えて嬉しいよ」 男の名はアーカム、バージルと同じようにこの魔道の栄える世界に訪れた悪魔に魅入られし背徳の司祭である、かつて手を組みそして殺しあった二人の男が再び出会う。 続く。 前へ 目次へ 次へ
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Lyrical Magical Stylish Mission 12 Fated Twins 「バージルゥ!!」 「ダンテェェェ!!」 一瞬の停滞の後、二人の刃が死闘の幕開けを告げる鐘の役割を果たした。 「……凄い」 なのはの呟きは金属音に混ざり、風に流れ消えていく。なのはは眼前の常軌を逸した光景に瞬きも忘れて見入っていた。家が剣術をやっていることから、なのはも多少は剣の知識があった。 だからバージルの使う技は居合いということも理解できた。それでもなお、その悪魔の技には感嘆の声しか出てこない。 柄に手を掛けた瞬間には振るわれていて、次の瞬間には鞘に収まりもう一撃放たれる、その繰り返し。本来、一撃必殺で二撃目がない居合いのはずなのに、バージルは一撃必殺の剣を連続して放っているのだ。 しかも、一撃一撃を視認できない高速で。 そして、それを受けるダンテもまた信じられなかった。次々と放たれる不可視の剣をどういうわけか知覚し、リベリオンで弾き、そしてあまつさえ反撃すら行っている。 完全に人間を超えた、もはや幻想的とも言える光景だった。 「イヤァァッ!!」 「フンッ!!」 そして、戦闘を始めてからまだ間もないというのに既に何度目になるか分からない弾き合いの後、計ったかのように離れて距離を取る。 互いが互いの剣を完全に熟知しているがゆえに、両者は余人の全く踏み込めない領域で拮抗していた。 「ったく、相変わらず恐ろしい剣だな」 衝撃に痺れる手を振りながらダンテがぼやく。だが、バージルの本気はこんなものではないし、ダンテもまたそうだった。こんなのはお遊び、予定調和の取れたただの挨拶代わりだ。 「―――Let s begin the main event.(メインイベントを始めようぜ)」 「―――Rest in peace.(楽にしてやる)」 さあ、本番はここからだ。間合いをもう一歩詰めよう。 「おおおっ!!」 「ハアッ!!」 さらに速度を増してぶつかり合う剣。だが、先ほどと違うのは――― 「! 血が……」 剣と剣がぶつかり合う金属音、それによって生じる激しい火花。それ以外に、計ったかのように両者から同時に舞う血飛沫。今まで互いに完璧な防御を見せていたのに、何故突然血が混じったのか。 その理由は簡単、両者とも確実に致命傷となりえるだろう攻撃だけを防ぎ、多少の傷は無視しているからだ。 ダメージを抑えることよりも、自分が貰うダメージ以上のダメージを相手に与える、二人が選んだのは文字通り骨身を削り続ける戦法だった。 どのぐらい血を流しながら斬り合っただろうか、冷静に時計を見ればきっと驚くほど短い時間だが、ダンテにとってはもの凄く長く感じた一瞬である。 互いに無数の傷を負い、傷を与え、それでもなお剣戟は一向に衰えぬ、それどころかより激しさを増している。 「―――Wasting time!!(時間の無駄だ!!)」 悪魔の血を引くダンテとバージルにとって、多少の掠り傷など何の意味も持たない。周囲に満ちる瘴気と魔力によって高められる悪魔としての性質が、そんな掠り傷などほんの数合のうちに治してしまうからだ。 千日手、このままでは永劫勝負がつかなかっただろう打ち合いを動かしたのはバージル。埒があかないと踏み、遂に引き金(トリガー)を引いたのだ。 「ガアアアッ!!」 「どわっ!?」 バージルを中心に爆発的な魔力が渦巻き、打ち合っていたダンテが吹き飛ばされる。 「!! ダンテさん!」 「ちぃぃ!」 吹っ飛んだダンテを追って迸る剣閃。魔人バージルの放つ空間斬りが、空中でロクに身動きの取れないダンテに襲い掛かる。死の一撃がダンテに突き刺さろうとした瞬間、剣戟の場にそぐわぬ銃声が連続で響く。 「危ねぇな、オイ!」 ショットガンを連続でぶっ放し、強引に吹っ飛びの軌道を変えて辛くも避ける。 「……滅茶苦茶だ」 端で見ていたなのはがダンテのあまりに滅茶苦茶な回避に呆れ果てる中、着地し、すぐさま転がって二撃目を避け、さらに大きく跳ねることによって三撃目もギリギリ避けきったダンテがバージルに向かって疾走する。 「やってくれるぜ!!」 遠距離では勝ち目がない。銃撃が全て剣で斬り飛ばされる上、神業じみた空間斬りを防ぐ手段がないのだ。ならばどうする? ―――答えは簡単、近付いてぶっ飛ばす。 「シャアアッ!!」 ダンテが駆け抜ける。それを阻止せんとバージルの居合いが放たれるが、驚異的な加速で飛び込むダンテはそのスピードを維持したまま物理法則を全く無視したかのような体捌きで辛うじて致命傷を免れる。 傷を負っていることに変わりはなかったが、ダンテにとってはそれで十分。 「オラァッ!!」 「フンッ!」 加速をつけたリベリオンが魔人と化したバージルを掠める。居合いを放った直後、刹那の死に体状態に打ち込んだ神速の一撃ですら致命傷にならないことにダンテは内心舌打ちし、首を狙って飛んできた一撃を皮一枚で避ける。 そこから先はついさっきと全く同じ、互いに僅かな傷を負わせつつ、拮抗した戦闘が続く―――少なくとも、横で見ていたなのははそう考えていた。 だが、トリガーを引いたバージルと引いていないダンテ。この差が、徐々にだが確実に天秤をバージルへと傾けていく。 ダンテの攻撃が見る見る少なくなり、ただひたすらバージルの剣を受けるだけになってきていた。そんなダンテの防御を突き抜けた攻撃が、ダンテの体をあっという間に血で染め上げていく。 「まだ、まだぁ!!」 ダンテが咆哮を上げ、劣勢を覆すべく魔剣リベリオンが更に速度を上げる。人外の速度で振るわれる刃。だが、バージルはダンテの剣を全て無傷で弾き返し、ダンテはバージルが攻撃するたびに傷を負っていく。 それでも何とか致命傷を避け続けていたダンテだが、ついに勝利の女神はその身全てを力へと捧げた男の方へ微笑んでしまった。 「ぐあっ……!」 「鈍ったな、ダンテ」 逆転に一縷の望みを賭けた特攻に近い形で振るわれたダンテ決死の一撃をバージルは首の皮一枚犠牲に避け、そしてバージルの一撃がダンテの腹を深く切り裂き、返す刃が肩から脇に抜けるまで振り抜かれる。 血飛沫が舞い、それでも諦めないダンテは止めとばかりに放たれた垂直の唐竹割を辛くも防ぐが、その硬直に蹴りを食らって吹き飛ばされる。 「ぐ……そういうアンタこそ、前より鋭くなってがあああっ!?」 片膝をつき、剣を支えに倒れることだけは免れていたダンテだが、強がりを言おうとしてバージルが放った幻影剣に貫かれ絶叫する。 そして、続けざまに放たれた幻影剣を避けることすら出来ず、ダンテはついにその場に崩れ落ちた。 バージルは魔人状態を解除し、全身から夥しい出血をしながらも意識を失わずバージルを睨みつけるダンテに、閻魔刀の切っ先を突きつけながら問う。 「……何故、トリガーを引かない」 「ぐ……引く必要が、ないからな」 「……愚かだな、ダンテ。本当に、愚かだ」 「へっ……まだ、勝負は、ついちゃいない、ぜっ!」 諦めないダンテが苦し紛れに銃を乱射するが、そんなものが通じるバージルでもない。 全て切り払うと、弾が切れて撃鉄の音だけを虚しく響かせる銃をそれでも引くダンテに向かってゆっくりと歩き出す。 ―――今助けに行かないと、ダンテは死ぬ。 その思いが横で見ていたなのはの頭を占める。だが、そんな思いに反して足は鉛にでもなったかのようにピクリとも動いてくれない。 (助けに行って……助けられるの? 私が、あの人を、止められるの?) かつて、この世で最強の悪魔、魔帝を倒したダンテ。そのダンテを倒すダンテの兄バージルを、ダンテに助けられてばかりだった自分がどうこうできるのか。 浮かぶのは、一瞬の後に二つに分かれる自分の姿。決して身体能力に優れているわけではない自分に、あんな剣が飛び交う嵐の中に飛び込める資格なんかあるわけがない。 でも、それでも。 (……助けられる、助けられない、じゃない。助けるんだ、私が、ダンテさんを!!) 今まで何度も助けられた。その借りを、今返さなくていつ返すのか。 (大丈夫。私だって、強くなった。それに、私たちは絶対に負けられないんだ!) それ以上に、譲れないものがある。帰りを待つ家族のためにも、外で戦う親友のためにも。今、ここで退くわけにはいかない。 目を閉じ、深呼吸。それで、ぐちゃぐちゃだった頭は嘘のように軽くなり、固まってた体は信じられないほど軽くなった。 ―――さあ、行こう。 心を砕こうとする死への恐怖を鋼の意志で押さえつけ、震える体をそれを上回る信念で叱咤し、なのははゆっくりと歩き出した。 「……む」 バージルの足が止まる。それもそのはず、傍観を約束していたはずのなのはが、ダンテを守るように立ち塞がったからだ。その目に、強い決意の光を湛えて。 「何の真似だ、小娘」 「見て分かりませんか?」 「おいなのは、俺は手を出すなって言っ!!」 ダンテの台詞は最後まで続かない。なのはが魔力を込めたレイジングハートで思いっきりダンテの頭をぶん殴って吹き飛ばしたからだ。 「ぐっ……」 「少し、頭冷やそうか」 吹っ飛ばされた衝撃が傷に響いたのか、ダンテは低くうめき声を上げてその場に蹲る。 なのははレイジングハートを肩に担ぎ、いつも組み手で自分を吹っ飛ばした挙句見下ろしてくるダンテと同じポーズで、ぶっ飛ばしたことを悪びれる様子もなくダンテに言う。 「Shut up. こんなのも避けられない怪我人は黙って見てなさい」 「なのは……!」 「兄弟喧嘩だし、平和に終わるなら傍観していようと思いましたけどね。ダンテさんが殺されるっていうなら話は別」 「だから……人の話を」 「聞くのはそっちですよダンテさん。いいですか、ダンテさんがここでやられたらどうなると思います?」 「……それは」 「海鳴は地獄と化す。それだけじゃない、今門の外で戦ってるクロノ君やフェイトちゃんもどうなるか分からない。私は、そんなの認めない」 「…………」 ダンテは言葉に詰まる。内容もさることながら、なのはの眼光に何も言えなくなってしまっていた。なのははダンテから目を外すと、バージルに向き直りながら言葉を続ける。 「それだけじゃない。今ダンテさんが殺されたら、どの道私もバージルさんに殺される。相手にされなかったとしても、結局私一人じゃ外まで帰ることすら出来ない」 「だからって……」 「甘く見ないでください。これでも散々ダンテさんにしごかれたんですから、ダンテさんが傷を治す時間ぐらい稼いで見せます」 「ちっ……もう知らねぇぞ」 「Yeah」 バージルはダンテの判断に驚愕するが、ダンテは大の字になってぶっ倒れてしまった。どうやら、本気でなのはにバージルの相手をさせるつもりのようだ。 「というわけです。水を差して悪いとは思いますが、貴方の相手は私です」 「……俺も舐められたものだ。今退くならまだ見逃してやるが?」 「You scared?(ビビッてんのか?) 小娘相手に恫喝なんて」 視線だけで気の弱い人なら殺せそうな、そんなバージルの眼光を受けて、それでもなのはは怯まず、不敵に笑い飛ばしてバージルにレイジングハートを突きつけた。 「……いいだろう。俺に楯突いたことを後悔して、死ね」 バージルが刃を鞘に収め、居合いの構えを見せる。バージルの居合いの速度は既に人の認識を超えた速度。まともに食らえば、食らったことすら分からず絶命するだろう。 なのはは突きつけていたレイジングハートを下ろし、静かに魔力を込め、魔法の用意をする。 「…………」 「…………」 なのははただボケッと二人の戦いを見ていたわけではない。自分との組み手で見せたダンテの動き、そのレベル差から推測する兄バージルの強さ。 そして、全力のダンテと打ち合うその技量。余りのレベルに震えそうになりながらも、”もし私が戦うことになったら?”というイメージをひたすら頭の中で行っていた。 今までの結果ではただの一度もバージルに傷を負わせることすら出来なかったが、イメージ上で散々殺されることにより、たった一つではあるが勝ちへの道を見出していた。 最早言葉は要らない。一瞬の後放たれる刃は避ける暇もなくなのはを切り捨てる。バージルもなのはもそれは分かっていた。その運命になのははどう抗うのか。 「……Die」 「……!!」 バージルの呟きが風に流れる。その声を聞いた瞬間、既にバージルはなのはの後ろで刃を鞘に収めて―――二つに分かれ、血飛沫を撒き散らしながら倒れようとするなのはが溶けるようにして消えていく。 「After image, successful」 「!? 幻覚か!!」 バージルが気付いた時にはもう遅い。すでに上空でなのはが発射の体勢を取っている。 「ディバインバスター!!」 「ちぃ!」 やはりバージルは、なのはを小娘だと侮っていた。その驕りが生んだ僅かな時間、その一瞬を狙っていたなのはの魔法を避けることは常人には不可能だ。 なのはの放つ極大の一撃がバージルを襲う。並みの悪魔ならそのエネルギーに耐え切れず、一瞬にして溶解するレベル。 だが、最強の悪魔狩人であるダンテと拮抗するその兄バージルは、一瞬の後の死の運命に抗う術を持っている。 「はあっ!」 トリックアップ。一瞬で上空に移動する技巧であり、バージルの神速の剣技を不動のものにしている体術である。ディバインバスターが直撃する寸前に飛び上がり、無傷で砲撃をかわす。 逆にディバインバスターを発射しているなのはには上に現れたバージルの攻撃をかわすことは出来ない。振るわれた一撃は三つに分裂し、小さな体を只の部品へと切り裂いて――― 「これも幻覚だと!?」 切り裂かれたなのはが消えていく。だが、先ほどとは違い斬った瞬間手ごたえを感じなかったバージルは、すぐさまなのはの居場所を探り、そして驚愕する。 ドッペルゲンガーとの入れ替わりがギリギリ間に合わなかったのか、バージルの描いた軌跡そのままに背中がバリアジャケットごと裂かれ、血を流している。 それでも、今ここで攻撃の手を緩めるわけにはいかないとばかりに、自身の周りに無数の光弾を浮かび上がらせている。 「Rock it!!」 「ちぃ!」 なのはの掛け声と共に飛来した光弾がバージルの周囲を高速で旋回する。なのはが展開したディバインシューター、その数なんと二十。 バージルも剣でそのうち十を叩き斬るが、残りの全てが同時にバージルへと襲い掛かり――― 「Blast!」 なのはの起動で大爆発を起こす。咄嗟に防御体勢を取ったものの、バージルとて全方位を完全に防御できるわけではない。 強烈な爆発はバージルの体を吹き飛ばし、それでも倒れぬバージルが受身を取った瞬間、輝く白光が目を焼く。 「行くよ!!」 「く……」 「ディバイン・バスター」 「「Ceruberus!!!」」 ダメージは意外と大きく、回避行動を取ろうとしたが言うことを聞かない。さらに、見ると体のあちこちが凍りついていた。なのはが得たケルベロスの力による凍結の効果である。 凍った手足に気を取られた瞬間、放たれたなのはの極大魔法が空間そのものを破壊しつくす勢いでバージルに襲い掛かった。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」 二度にわたるドッペルゲンガーの展開と入れ替わりに加え、一瞬ではあるがディバインバスターとドッペルゲンガーの同時行使、さらにディバインシューターとディバインバスター・ケルベロスの同時攻撃だ。 さすがに精根使い果たしたなのはが、地に下りて荒い息を上げる。 「これが、私の全力……」 今ので倒せていなかったのなら、なのはに勝ち目はない。多少強引ではあったが、不意をつく形でこれ以上ないくらいに決まった必殺の連携なのだ。 バージルが耐え切っていたのならば、次はもう無理。バージルに油断はない。あの剣を凌ぐなんて不可能だ。 「……やってくれたな」 「……やっぱり、こうなるよね」 だが、どこかこの展開を知っていた。なのはは大きく深呼吸して息を落ち着かせると、フラフラながらしっかりと立ち上がる。 立ち込める霧氷の中から現れたバージルは、一瞬バージル本人かどうかを見間違うほど禍々しいオーラを発している。それもそのはず、耐えられないと踏んだバージルは躊躇いなくデビルトリガーを引いていた。 その結果、彼自身の体に流れる悪魔の血が、ダメージを最小限にまで押さえ込んだのだ。 また、あまりに無茶な展開をしたために最後のディバインバスター・ケルベロスの威力が、全力時の半分程度だったことも理由として挙げられよう。 なのはのイメージではギリギリ最大出力が出せると踏んでいたが、どうやら幸運の女神はなのはに微笑まなかったようだ。 「小娘と呼んだことは詫びよう……貴様は十分な戦士だ」 デビルトリガーを解除し、バージルはなのはに賞賛を送る。たかが小娘と侮っていた存在にここまでダメージを負わされるのは、バージルにとっても完全に予想外だった。 「それは、どうも……それから、小娘じゃなくて、高町なのはです」 「高町、なのは……そうか」 だが、なのはにとってそんなことはどうでもいいのだ。次の瞬間に放たれるかもしれない死の一撃から逃れるべく、なのはは適当に返事をしながらも必死で次の策を考える。 「だが……少し足りなかったな」 「まだ、終わったわけじゃないよ」 焼け付く勢いで頭を回転させても、出てくるのは”死”の一文字だけ。リーチで勝るバージルに勝つには、初撃を何としてでも防ぐなり避けるなりしないといけない。 今また魔法をチャージしようものなら、その瞬間バージルの剣は飛んでくる。切り裂かれた背中の痛みに耐えながら、一瞬の後に飛んでくる死の運命に怯えながら、それでもなのはは毅然と立ち向かう。 「私は、諦めない。貴方が立ち上がるなら、何度だってぶっ飛ばしてあげるんだから」 「……ならば、やってみるがいい」 バージルの姿が消える。消えたわけではなく、ただ高速で移動しているだけなのだが、なのはの目には影すら映らない。 どこから飛んでくるか分からない、一撃貰ったらそれで終わりの剣。なのはは必死でシールドを展開し、死の未来へ抗う。 「無駄だ!」 しかし、バージルの剣をシールド程度で止められるはずもない。やすやすと切り裂かれたシールドは消滅し、シールドを消すために振るった剣がシールドだけでは飽き足らずなのはのバリアジャケットを貫通する。 裂かれた袖が風に舞い、ワンテンポ遅れて血が吹き上がる。 でも、まだ死んではいない。絶対条件だった初撃のやり過ごしを達成したのだ。得物が剣である以上、バージルは必ずなのはの側にいるのだから。 「終わりだ!」 「まだっ! Satellite!!」 レイジングハート・ケルベロスが凶悪な発光を見せたかと思うと、なのはの周囲に雹の嵐が吹き荒れる。バージルの姿が追えていなくても、これならば相手を見る必要もない。近くにいれば、それでいい。 「ふんっ!」 だが、雹が体に当る音が聞こえてこない。吹き荒れる風の音に混じって聞こえるのは、バージルが雹の弾丸を切り裂く金属音だけ。 銃弾すら切り裂くバージルにとって、数が多いだけの雹など脅威でも何でもないのだ。 だが、雹の処理に追われて手が封じられているのは紛れもない事実。その嵐の中心で、なのはは目まぐるしく周囲を探る。 「見つけた……!」 サテライトはバージルの姿を視界に入れるためだけに発動した技。次の一手は絶対の死角から飛んでいく強烈な一撃だ。なのはは渾身の力でレイジングハート・ケルベロスを地面に叩きつけ、腹の底から叫ぶ。 「貫け! Crystal!!」 叫びに応えるかのように地中を突き破って飛び出す氷柱。体を下から上まで貫いて余りある巨大なそれは、狙い違わずバージルの足元から炸裂し――― 「遅い!!」 突き刺さる直前、振るわれた刃によって全て根元から切り捨てられる。なのははそのあり得ない光景に目を疑うが、今止まることは死と同義。クリスタルでも無理ならば、それを上回る攻撃をするだけだ。 「It s cool!! Million Carats!!!」 なのはを護るように、そして、周囲の空間そのものを刺し貫くように突き上げられた無数の氷柱。サテライトと同じく全方向攻撃であるそれは、バージルが閻魔刀でなのはを狙っていたのであれば確実に直撃するであろう一撃。 「無駄だと言っている!!」 それすら突き上げる直前に全て切り捨てられた。人知を超えた悪魔の技に、さすがになのはも杖を強く握り締める。これで、自分が出せてバージルに当りそうな技は全て出し切ってしまった。 同じ技が二度通じる相手とも思えない以上、なのはに打つ手は事実上なくなったといえる。 「……まだ」 それでも諦めず、モード・ケルベロスとモード・ドッペルゲンガーの同時行使まで視野に入れた次の一手を模索しようとした矢先、切られて消え行く氷柱の一部が砕け散り、何事かと思う暇もなくなのはの太ももに灼熱の感触が走る。 「え……?」 何が起こったのかもわからないまま、直後脳天まで突き抜けた激痛に悲鳴すら上げられないまま身を震わせる。 耐え切れずに崩れ落ちたなのはが見たのは、自分の太ももに深々と突き刺さった幻影剣だった。だが、そんな絶体絶命の状況において天はなのはに味方をする。 崩れ落ちる際の倒れ方があまりにも絶妙のタイミングであったため、バージルが首を狙って振るった刃が本当にただの偶然だが空を切り、髪を数本斬り飛ばしただけに留まったのだ。 「悪運もここまでだ!」 それでも、バージルは止まらない。なのはの悪運に舌打ちするも、飛び上がり、今度こそ仕留めそこなわないよう逃げ場のない上から叩き潰そうと剣を振り下す。 そしてなのはは薄れゆく意識の中、最後の足掻きを見せる。 「……Go to the hell」 なのはの呟きは風が邪魔をしてバージルには届かない。今、この状況に限りなのはには絶体絶命の状況を覆すだけの力があった。 「ヴォルケイノ!!」 「なにぃ!?」 吹き上がった白光がバージルを吹き飛ばす。ダンテがなのはに預けたベオウルフ、その中でもなのはが振るえる最強の技が、もはや抵抗の術無しと防御を全く考えてなかったバージルに炸裂する。 「ぐうっ……ベオウルフ、だと……!」 「…………」 予想外の一撃に吹き飛ばされたバージルは、それでも倒れない。魔力の殆ど切れたなのはでは、ダンテほどの威力が出ないのも当然である。 しかも、どうやら本当に最後の一撃だったようだ。ベオウルフを抱きながら倒れたなのはは気絶しているようでピクリとも動かない。流れ出る血が、バリアジャケットと大地を徐々に赤く染めていく。 「……抵抗もこれまでか。俺とここまで戦えたこと、あの世で誇るがいい」 動けないなのはに無情にも振るわれる剣。狙い違わずなのはの首元に吸い込まれるように閃いて――― 「レディはもっと大事に扱うもんだぜ?」 横から飛び出してきたダンテの剣が、すんでのところでなのはの死を止めた。ダンテは受け止めた閻魔刀ごとバージルを吹き飛ばし、なのはに優しく微笑みかける。 「ホント大したガッツだぜなのは。まあ、頑張りすぎたな。ちょっと休んでろ」 「……ダンテさん」 一瞬本当に気絶していたなのはだが、澄んだ金属音と続いて聞こえてきたダンテの声に意識を取り戻す。だが、限界を無視して動かした体はどうやら完全にオーバーヒート状態にあるらしく、全く言うことを聞いてくれない。 それでも、なのははやりきった感いっぱいだった。 「後は、俺がやる」 「……お願いします」 言ったとおり、ダンテが回復するぐらいの時間は稼いでみせた。あとはダンテがやってくれる。なのははレイジングハートに傷の治療を任せてしばらく意識を飛ばすことにした。 「なに、お前がここまで頑張ったんだ。無駄にはしないさ」 ダンテの声が、やけに遠く聞こえた。 「……ダンテ」 「ハハハ、随分派手にやられたじゃねーか」 吹き飛んだバージルに悠然とリベリオンを突きつけるダンテ。先ほどの致命傷など何事もなかったかのようにしっかりと大地を踏み締めて、あたかも傷が完治して見せたかのように振舞う。 「……この短時間で完治だと? 笑わせる」 「だったら、試してみればいいじゃねーか。ホレ、かかって来いよ」 「ダンテェェェ!!」 「来な! バージル!!」 十分な助走をつけた疾走居合い、そしてそこから続く悪魔の連撃がダンテめがけて叩き込まれる。ついさっきまでは、受けることしか出来ず、それですら傷を負っていたバージルの攻撃。 「―――ハッ、つまんねぇ攻撃だなオイ」 「バカな……」 ダンテの嘲笑、それに続くバージルの呟き。 ダンテは人の目には映らぬ速度の疾走居合いを軽々かわし、かわした隙に放たれた連撃を全て叩き落していた。 「どうした、もう終わりか?」 「……ふざけるな!」 怒気も露に、バージルの剣が分裂したかのように迸る。ダンテはそれを涼しい顔で受け流す。そのあり得ない筈の光景にバージルは愕然とする。 (何故だ……! 確かに俺もダメージを負った。だが、それを差し引いたとしてもダンテのほうが重傷のはず!) バージルの考えはまさしくその通りだった。事実、ダンテの体は動いたために開いてしまった傷跡から再び血が流れている。 そもそも、いくら悪魔の血を引いてると言えど、あれほどまでの致命傷がこんな短時間で治るわけないのだ。傷が生む痛みは集中力を乱し、流れ出る血は体温と運動能力を奪っていく。 共に万全の状態で戦闘力が拮抗するのであれば、より深い傷を負ったダンテがバージルを凌駕することなどあり得ない筈なのに。 「遅いぜ?」 「ぐっ……!」 「オラァ!!」 「がああっ!?」 だが、現実はこうだ。今まで一度もクリーンヒットしなかったダンテの攻撃が遂にバージルを捕らえるまでに至っている。 その理由が分からない限り、このまま接近戦を挑むのは危険と判断したバージルが距離を取る。 「認めんぞ!!」 ダンテと同じように腹を薙がれ、肩をバッサリと裂かれて膝をつくバージル。 それでも折れず、放たれたのは幻影剣。ダンテを包囲するように浮いた六本が一斉に襲い掛かる。 「インフェルノォ!!」 だが、幻影剣が突き刺さる刹那、吹き上がった地獄の業火がダンテに牙を剥いた矢を悉く粉砕した。 揺らめく炎を呆然とバージルが見つめる中、悠々とダンテは歩いてくる。 「何故……何故だ!!」 「―――分かんねぇか? どうしてアンタが、俺に勝てないのか」 「……貴様ぁ!!」 「一つだけ、教えてやるよ。俺が今、こうやってアンタを追い詰めてるのはな」 ダンテはそこで一旦言葉を切り、自身の中で張り裂けそうになる思いと共に告げた。 「―――アンタがとっくの昔に、捨てちまった力のおかげさ」 人間だけが持ちえる、魂とそこに宿る底力だ。 「戯言を……!」 力だけを追い求め、力だけを信じてきたバージルにはとてもじゃないけれど認められないダンテの言葉。力を生むのは力、そう信じて、今までひたすら剣を振るってきた。それを疑うなど、自身の生そのものを否定するのと同じ。 「まあ、俺もついさっきまでは忘れてたんだけどな。なのはのおかげで思い出したよ」 ちらり、と後ろで寝ているなのはを見て、そしてバージルへと向き直る。 「だから、アンタは俺には勝てない。それは、俺が人間だからだ!!」 「ふざけるなぁ!!!」 「―――だったら、見せてみろよ。アンタの力はこんなもんじゃないだろう!」 「おおおおおおおっ!!!」 ダンテが走る。バージルもまた、なりふり構わぬ大声を上げてダンテに向かって疾走する。間合いは瞬く間に縮められ、互いの全てを賭けた渾身の一撃が交差する。 バージルがダンテを頭から二つにするほどの唐竹割、ダンテはバージルを腹から二つに割る横薙ぎ。互いに防御を完全に捨てた、相打ちになるはずの一撃。 (アンタは負ける。だが、それはアンタが弱いからじゃない。助っ人の活躍さ) それでも、ダンテは負ける気がしなかった。脳裏に浮かぶのは、自分の窮地を救ってくれた人物の姿。 ズタズタになりながら、それでもダンテを信じて戦った少女の姿がフラッシュバックする。 (アンタは強い、アンタは負ける。アンタが負けるのは俺じゃない、アンタは―――なのはに、負けるんだぜ!!) 剣が全く同時に振り抜かれる。しかし――吹き出た血飛沫は一人分。刃がまさに触れるその瞬間、バージルの目にすら映らぬほどの踏み込みを見せたダンテがバージルの一撃をかわし、そのままリベリオンが大きくバージルの腹を薙ぎ払ったのだ。 「……俺は、また負けるのか」 「だから言っただろう? 人の話は聞くもんだぜ」 膝をつき、息も絶え絶えなバージルにダンテが言う。バージルは、先ほどダンテが言っていた言葉を思い出していた。 「……人間の、力か」 「そうさ。情けない話だがな、俺はいつだって肝心なときには誰かに支えてもらってた。レディ、トリッシュ、オヤジ、そして―――」 「……高町、なのは」 絶体絶命のダンテを救い、魔剣士スパーダの血を引くバージル相手に一歩も引かず、結局バージルがダンテに対してまたしても遅れを取ることになった最大の要因。 「ああ、俺はいつだって一人じゃなかった。それは俺が人間だったから、人間として戦ったからだ、俺はそう信じてる」 「―――それが、スパーダの」 「魂の力」 「……なるほど、な」 同じように父を尊敬した。だが、バージルはその力を追い求め、ダンテはその魂を受け継いだ。 誰かを想い、その想いを力に変える人としての魂を。 「―――征け、ダンテ。魔帝はこの先にいる」 最後の言葉と、唯一現実のものだったアミュレットを残し、バージルは消えていった。ダンテはアミュレットを拾い上げると、しばし見つめた後に握り締め、笑みを浮かべて虚空を見上げた。 「やれやれ、相変わらず素直じゃない兄貴だぜ」 アミュレットをポケットに仕舞い、グースカ寝こけているなのはの元へ歩く。硬い地面の上で、これまた硬いレイジングハートを枕に眠るその顔は完全に少女のものだ。 「……こーやって見るとホント年相応のガキなのにな」 全く、あの信じられない程の意志の力はこの小さな体のどこから沸いて出てくるのやら。 ダンテは起こそうかとも思ったが、今回バージルを退けることが出来たのは間違いなくなのはのおかげだった。なら、好きなだけ眠らせてやろう、と思い直す。 最後の戦いに臨むのに、マイナス要素は残したくない。 「やれやれ」 コートを脱ぎ、なのはに掛けてやる。その横に腰を下ろすと、バージルの消えた箇所を見つめ、楽しそうに呟いた。 「―――これだから人間はやめられない、そうだろう?」 前へ 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 番外編 Bad End(後編) 悪魔の支配する世界に希望など欠片も無い、あるのは死と破壊そして圧倒的な絶望だけ。 最強無敵を誇った古代ベルカの戦船聖王のゆりかご。その巨大なロストロギアも魔界の王の振るう剣の前には成す術もなく紙細工のように刻まれて数多の残骸と散った。 バージルは自分の刻み尽くした聖王のゆりかごの残骸の上に一人で立っている。この程度の物を斬り裂く事など今の彼には造作も無いものだった。 アーカムを含め敵とすら呼べぬ有象無象を殺しても感慨など皆無であり、彼の脳裏にはアーカムの吐いた言葉が駆け巡っていた。 “…悪魔の餌にしてしまったよ” あの時見捨てた筈の少女の死を実際に眼前に突き付けられ、バージルの心にかつて失った母の面影があの少女の姿に被る。 自分を兄と慕った少女が、その小さな手でこの悪魔の手を弱弱しく握ってきた少女が……母と同じように虐殺されたのだ。 バージルは虚ろ気な瞳でまるで今の彼の心のように曇った空を仰ぎながら小さな声で呟いた。 「あの娘は……きっと泣いたろうな…」 本当によく泣く子供だった、少し転んだだけでも泣いたのだから見知らぬ者に連れ去られ、そのうえ悪魔の贄になったのならばきっとひどく泣いただろう。 バージルの耳には聞こえぬ筈の幼子の鳴き声がいつまでも響いていた。 それからのバージルはまるで狂ったように戦いを求めた。 次々と強大な悪魔を作っては腕試しという名の虐殺を行い、文明の発達した人間の世界特に強力な軍事力を持つ様々な次元世界に侵攻した。 目の前の生きとし生きる者の絶命する断末魔を聞く瞬間だけは耳に響く幻聴から、あの少女の泣き声から逃れられたから。 既にバージルの滅ぼした人間の文明は手足の指の数では数えられない程であった。 この鬼神の如き所業により数多の世界は悪魔達の手に落ち、彼等はその喉を人間の血潮で潤し大地に人骨の山を築き続けた。 とある次元世界に悪魔によって作られた闘技場がある。 それはまるで中世の世に人間が作ったコロッセオに似てはいるがその目的はまるで違う、そこで行われるのは戦いとは呼べないのだから。 それは魔王が闘争の渇きを癒す為の場所、生贄が一方的に殺されるだけの祭壇だった そこに新たなる魔王の生贄として一人の人間が悪魔に連れられて来た。 鎖に繋がれたその者の名はファーン・コラード、かつて管理局の訓練校にて多くの局員を育てた魔道師だった。 スカリエッティとアーカムの起こした聖王のゆりかごの事件により管理局は消滅さらにその後悪魔の出現により管理世界の秩序は崩壊したのだ。 そしてコラードは力無き人々や家族を元管理局の仲間と共に守っていたのだが圧倒的な物量の悪魔の軍勢に遂に敗れ去り、こうして敵の手に落ちたのだ。 (ここはいったい…) 心中で呟くコラードに彼の手に繋がれた鎖を引く悪魔が人外の低さを持つ声で語り掛けてきた。 「おい人間。そろそろお前にここの意味を教えてやる…」 悪魔はそう言うとコラードの手の鎖を解き、あろう事かコラードにデバイスしかもそれはかつてコラードが使っていた愛用のものを渡したのだ。 「お前にはこれから魔王様を相手に戦ってもらう…」 「魔王? 私如きが勝てると思っているのか? 意味の無い…殺すのなら早く殺せ! どうせ家族はもう…」 激情に声を荒げるコラードに悪魔はその異形の顔を歪めて笑い、まだ言葉を続けた。 「おいおい、早とちりするなよ人間。あの方に勝てる奴なんている訳ねえだろ? お前は全力で戦ってあの方を満足させれば良いのさ…… もちろん戦うのはお前一人じゃねえし、もしあの方を満足させれば家族もお前の命も保障する」 悪魔はやけに饒舌にコラードに言った、正に悪魔の甘言だった。僅かな希望がコラードの心に火を灯す。 「……分かった」 そう呟くと共にコラードは闘技場の門を潜る、その彼の背中に悪魔が笑いながら呟いた。 「てめえの家族はとっくに喰ったつうの。いや~やっぱり人間が希望を持ったり絶望したりするのを見んのは面白えな~♪」 闘技場の中央に二人の人の影が立っている。一人は先ほどのコラードであり、もう一人は彼のパートナーとして連れて来られた男だった。 それは黒髪の男性で両手には小太刀と呼ばれる短刀を持っていた。コラードは知らない、彼が教え子である高町なのはの兄である事を。 そしてコラードがそれを知ることは永遠にないのだ。 「あなたも家族を?」 「……ええ」 「私はファーン・コラードです」 「俺は高町恭也と言います」 「高町ですか…」 「どうしました?」 「いや…昔の教え子にそんな名前の子がいて…」 そんな会話をする二人の前に宙から巨大な大鷲が舞い降りる、その背には黒衣に身を包んだ銀髪の男が立っていた。 その男は優美とすら思える動作で闘技場に下り立つとコラードと恭也の二人を見る、それはまるで肉屋に吊るされた肉塊を見るような目だった。 距離をおいても感じる圧倒的な気迫に二人はこの男こそ魔界の王だと理解した。 魔王は眼前のコラードと恭也を見定めると静かに口を開く。 「今日はなかなかのモノを揃えたな……さて人間、貴様らは体調も完璧、得物も最高の物が渡されている。 それを以ってこの俺と戦いそして満足させれば望みを叶えてやろう、お前らの命も家族の命も自由もな」 その魔王の言葉にコラードは眉を歪めて吼えた。 「何が望みを叶えるだ……どうせ戦う意外に道は無いのだろうが! この悪魔め!」 激昂するコラードを鎮めるように恭也が短刀を構えながらコラードの前に立った。 「落ち着いて下さいコラードさん。とにかく俺が近づいて斬りますから援護をお願いします」 「……分かった。必ず生きて帰ろう、恭也君!」 その言葉と共に恭也が駆け出し、コラードが射撃魔法の術式を展開した。 その生贄の哀れな様子に魔王はその美貌を歪めて笑った、今日も血飛沫と絶叫が魔王の一時の癒しの為に流れる。 バージルは服に付いた返り血や肉片をトリッシュに拭かせながら今日の生贄の意外な奮戦振りに喜び、微笑さえ浮かべていた。 「今日の人間は素晴らしかったな……まだあれ程の使い手がいたとは…」 「そうですか。確かあの魔道師はミッドチルダという世界で捕らえた物です」 「ミッド……か」 ミッドチルダ、その懐かしい名前にバージルは何故か胸に鋭い痛みを感じる。 その刺すような鋭い痛みと共にバージルの脳裏にはかつてのミッドでの記憶が思い起こされる。 それは機動六課で過ごした日々の記憶、彼を慕った者達の残像が目に浮かぶ。 どういう風の吹き回しか、その日バージルは何年ぶりになるのかミッドチルダに降り立った。 あのミッドの魔道師を殺したからなのか、久方ぶりにその名を聞いたからなのかバージル本人にも分からなかったが何故か自然と足が向いた。 あの日ミッドを去ってから避け続けた事だった、この世界に関する情報は聞くこともしなかった。 故にその惨状にバージルは少しばかりの驚愕に目を奪われた。 地上に君臨する法の守り手として高くそびえていた地上本部は半ばから折れて崩壊していた。 その周囲の街並みも破壊の限りが尽くされ、とても人が住んでいるとは思えない程の有様である。 バージルは懐かしい道を歩きかつての地上本部へと向かった。 バージルの歩くその道はアスファルトが剥がされ、夥しい人骨が転がり数年前の平和な様子など欠片もなかった。 地上本部に着いたバージルの目に飛び込んできたのは磔や串刺しとなった大量の人骨と屍の列だった。 その惨状を興味など無さそうに眺めていたバージルだがその目が一つの串刺しの白骨化した屍に止まる。 その骨にはある物が鎖骨の辺りにぶら下がっていた。 バージルは魔力を使い離れた場所にあったそれを手元に引き寄せて確認する、それは記憶の通りに彼女の使ったメガネだった。 「やはりフィニーノか」 それはかつて六課のデバイスマイスターの少女の物だったメガネ。 いったい何年放置されたのか、白骨化したその屍が無常に過ぎた年月を語っていた。 そしてバージルは開けた場所にたどり着く、そこには木で作られた大量の十字架が刺さっていた。 一目で分かる。それは墓場だった、その数えきれないほどの圧倒的な数の十字架を眺めていたバージルに懐かしい声が響いた。 「久しぶりだな…バージル」 振り向いたバージルの目に映ったは烈火の将の二つ名を持つベルカの騎士、シグナムの姿だった。 何年かの間にシグナムの様は随分と変わっていた。 シグナムの顔は幾分か痩せ細って見え、かつては長く美しかった彼女の髪は肩口まで切り揃えられ髪質も酷く荒れて痛んでいる。 だがその瞳は以前と同じ燃えるような意思を持っていたことがバージルに一瞬でその女性がシグナムであると理解させた。 シグナムの言葉にバージルは幾分かの間を置いて静かに答える。 「ああ…久しいな」 そのバージルの言葉にシグナムは辺りの墓を仰ぎ見ながら口を開いた。 「凄い数だろう? どれだけ埋めても足りないのだ、遺体の数が多すぎてな…」 バージルはその時ふと気づいた、そう言うシグナムの手には花束が握られていた。 シグナムはおもむろに歩き始め一つの墓の前で立ち止り、その質素な十字架の下に花束を置いた。 「…誰の墓だ?」 「ヴィータ…それにシャマルとザフィーラだ、ここは八神家の墓でな」 バージルはその言葉に少しばかりの驚愕を覚えるがシグナムの言葉はまだ終わらなかった。 「左にあるのはテスタロッサとハラオウン家の墓、右はスバルとナカジマ家の墓だ。この辺りは六課の者の墓ばかりでな……」 辺りを見渡せば懐かしい名前が十字架に刻まれていた、なのは、エリオ、キャロ、ティアナ、その他諸々の機動六課の人間の名前がそこにはあった。 「お前が六課を去ってから、ゆりかごとの戦いで管理局は敗れてな……その戦いでみんな死んだよ。ここに眠る者達も大半がその時死んだ者だ…」 「……八神はどうした? お前の話ではまだそこには埋まっていないようだが…」 「死んではいない……ゆりかごでの戦いで傷を負って二度と歩けなくなってな、まだ人間が生きていける平和な世界で元管理局員の者達と一緒に生活している」 シグナムの口から語れたミッドチルダの惨状、機動六課の人間達の哀れな結末を聞いてしばらくの間その場を沈黙が支配した。 そしてバージルが静かに言葉を漏らしその沈黙を破った。 「……烈火よ、お前は今何をしている? 管理局は無くなったと言っていたが…」 バージルのその問いにシグナムは物言わぬ墓標に下ろしていた視線をバージルへと向ける、その眼光に込められていたものは紛れも無く殺気だった。 「最初はスカリエッティの手の者達と戦っていたよ……管理局が滅んでも私はベルカの騎士だからな……そしてスカリエッティやゆりかごがどこかへ消えた今は…」 葉を紡ぐと共にシグナムの身体をバージルにとっては懐かしい姿、バリアジャケットが覆った。 手にした炎の魔剣レヴァンティンをバージルへと構えながらシグナムは殺気と敵意そして悲しみに溢れた眼差しと言葉を投げかけた。 「…人々を脅かす悪魔を屠る者、悪魔狩人……それが今の私だ、魔王ギルバ」 「………その名を知っていたのか?」 そのバージルの言葉にシグナムは怒りにその心を燃え上がらせる。 「いったい幾つの世界を滅ぼし、どれだけ人間を殺した!? 今どの世界の人間も魔王ギルバの名を知らぬ者などいない!!!!」 怒りを叫びながら炎を纏った魔剣を構えるそのシグナムの姿を見たバージルは頬を吊り上げて笑った。 ひどく濁った目で以って笑うバージルの顔は邪悪な悪魔そのものであった。 「くくくっ。ここへ来て正解だったぞ烈火よ……最近は特に闘争の渇きが酷くてなぁ……さあ非殺傷設定もリミッターも無いお前の全力を俺に見せてみろ、俺の渇きを癒してみせろ…」 バージルは頬を吊り上げて笑いながら指を鳴らす、すると次元の隔たりを破って大量の刀・剣・槍といった武具が現われる。 触れずとも無数の武具から溢れる魔力や禍々しいオーラが、その全てが魔剣・妖刀と呼ばれる物だとシグナムに悟らせる。 バージルは滅ぼした様々な世界や魔界に眠っていた魔性を宿した武器の数々を手に入れ、その戦術を限りなく無限に広げていたのだ。 だがバージルは数多の武器の中から迷うことなく一つの刀を手にした。 「では踊るとしよう……恋焦がれた貴様との剣舞を」 魔を喰らう妖刀、閻魔刀を抜刀の型に構えたバージルは悲しみと怒りに燃える烈火の将に踊りかかった。 十字架の並ぶ死者の園の上空を二つの刃を持った戦士が舞い踊る。 一人は正義を、悲しみを、怒りを以って炎の魔剣を振るう烈火の将シグナム。もう一人は、ただ一時の渇きと享楽を癒す為に妖刀の刃を繰る悪魔の王バージル。 火花を散らしながら繰り広げられる刃の舞踏が静寂である筈の墓所に響く。 「紫電一閃!!」 シグナムはカートリッジを再装填して愛剣に魔力を満たし、横薙ぎの斬撃をバージルに見舞う。 だがバージルはこの一撃をカートリッジ再装填の段階で先読みし、これに高速移動から繰り出す閻魔刀の抜刀術疾走居合いで受け止める。 空中で二つの刃がぶつかり火花と共に甲高い金属音が鳴り響く。 両者は軋みを上げる刀身に力を込めて鍔競るが、徐々にその拮抗はシグナムの劣勢へと変わっていく。 「くっ!」 閻魔刀に込められる圧力に負けて後退を強いられるシグナムにバージルが邪悪な笑みを近づいて言葉を吐く。 「どうした? お前の力はその程度か? もっと俺を熱くさせてみろ」 バージルはそう言うと同時に周囲に魔力で作られた無数の幻影剣を展開、その照準をシグナムに向ける。 その幻影剣の刃はかつてのバージルのものとは比べられない程に巨大で、込められた破壊力もまた比例して跳ね上がったものだった。 数多の幻影剣は照準が定まった瞬間に射出され鍔競りに動きを殺されていたシグナムに襲い掛かった。 「げほっ! はぁ…はぁ」 幻影剣の刃を受けて墓地の一角に落ちたシグナムは大量の血潮を大地に吐き散らしながら裂かれた傷に手を当てる、だが傷は深く傷口を押さえた指の間からドス黒い血が溢れる。 魔王と成り、数多の世界で飽くなき闘争を続けたバージルの力は戯れに振るうものでさえシグナムを絶対的に凌駕するものであった。 そのシグナムの前にバージルが下り立つ。 「どうした烈火、もう終わりか?」 そのバージルの挑発にシグナムは口元の血を拭いながらまだ諦めを知らぬ目で不敵に答える。 「…それはこちらのセリフだ…貴様の力はその程度か? やはり半魔の悪魔などたかが知れるな…」 そんなシグナムの言葉にバージルは余裕に満ちた表情を怒りに変えた、久しぶりに自分を愚弄する言葉を吐いた相手に戯れでない殺意を抱く。 「言ったな烈火…」 バージルは言葉と共に腰に収めた閻魔刀の柄に手を伸ばし、その妖刀に莫大な魔力を注ぎ込む。 バージルが放たんとするのは絶命必至の絶技、閻魔刀を用いた最強の技の一つ広域次元斬である。 「死ね」 次の瞬間、空間を斬り裂く異様な音と共に大量の斬撃がシグナムに襲い掛かった。 シグナムは全速力で以って空間ごと斬り裂く魔の斬撃を回避し続ける。 広域次元斬のその威力は一撃でも受ければその瞬間にシグナムの戦闘力を絶望的に奪うと予感させるものであった。 だがしかしこの攻撃こそシグナムの待っていた反撃の機会だったのだ。 広域次元斬は射程も威力も半端ではないが必ず技の終わりに大きな隙が来る筈である、シグナムはその瞬間に勝負を仕掛ける算段をしていた。 (それまで逃げ切れば勝機はゼロでは無い!) 心中で呟きながら全てのカートリッジを使い魔力を高めたレヴァンティンに最大の大技の準備をさせる。 それは隼の如き速き矢を射る鉄弓、シュツルムファルケンであった。 そして遂に妖刀の魔の剣舞が終わりを告げ、魔王が無防備な姿を晒す。 高速の回避動作に急制動を掛けたシグナムは手の魔剣を即座に鉄弓へと変形させ、その短くなった桜色の髪を振り乱しながら叫んだ。 「駆けよ隼!! シュツルムファルケン!!!!!!!」 魔力で形成された矢が音速の壁を越える程の速度で魔王に向かって飛翔する、矢の凄まじい威力に爆炎が舞い上がり周囲を土煙が満たした。 例え最強の魔王とて烈火の将の誇るこの最強の技を受ければ無傷では済むまい。 だがそれは“当たれば”の話だった、シグナムの背後で空間転移の発動により大気が歪み妖刀の白刃が閃いた。 「ごふっ…」 シグナムの身体を閻魔刀の刃が貫き、彼女は口から夥しい血潮を吐いて宙に鮮やかな朱の華を描いた。 黒衣に身を包んだ銀髪の魔王が濁った目でその哀れなベルカの騎士を見ながら小さく呟いた。 「惜しかったな烈火…もう少し変形に掛ける時間が早ければ当たっていたぞ。まあ当たったとしても今の俺を倒すには至らぬ威力であったがな…」 バージルは言い終わるとシグナムの身体に埋まった閻魔刀の刀身を引き抜き、一瞬で血を振り払って鞘に戻した。 白刃を身体から引き抜かれたシグナムは力なくその場に倒れて、彼女の身体に纏われていたバリアジャケットが消え去る。 「だがこの死合いは久しぶりに楽しめたぞ烈火」 「……バージル…」 そのバージルの言葉にシグナムは口から止めど無く血を吐きながら、その目に涙を流し始めた。 バージルはその光景に驚愕した、シグナムのような烈女が死を前に涙をみせるとは考えもしなかったのだ。 「どうした? やはりお前でも死は恐ろしいか?」 「げほっ……違う…私は最後まで………救えなかった」 バージルの言葉にシグナムは血と涙にその美しい顔を汚しながら答える。 「……高町やテスタロッサの事か?」 シグナムのような誇り高い騎士ならば仲間を救えぬ事を恥と思っての落涙かという考えがバージルにそんな言葉を吐かせた。 「違う……私は…」 だがシグナムの答えは否であった。 「私は……お前を助けたかったんだ…バージル」 「……何だと?」 そのシグナムの言葉にバージルが目を見開き眉を歪める。 シグナムの涙と声は酷くバージルの心を揺り動かし、凍った筈の心に熱いものが込み上げられてくる。 「助け? 救う? 何を下らん事を……死を前に気でも触れたか?」 「下らん…か……ではバージル…お前は何故…」 シグナムは涙に濡れる瞳に今までのどんな眼差しよりも悲しい想いを込めてバージルを見つめながら言った。 「…泣いている?」 魔界を総べる最強の魔王が泣いていた、その目から静かにだが確かに水の雫を零して泣いていた。 それは彼自身にも理解も制御できない事だった。 「何?…これは…いったい」 バージルは自分の目から零れ続ける涙の雫を手で拭った、しかし流れる涙は彼の意思に関係なく流れ続けた。 自分でも制する事の出来ない感情の濁流に狼狽するバージル、その彼にシグナムもまた涙を流しながら語りかける。 「ごめんなバージル……あの時私が…お前をちゃんと止められていれば…お前がそこまで堕ちる事など無かったのにな…」 あろう事かシグナムの吐いた言葉は恨みでも怒りでも無く謝罪だった、それも何年も前のバージルの離脱への謝罪。 その涙交じりの謝罪の言葉はバージルの心に今まで感じたどんな痛みをも上回る激痛を与えた。 「すまない…バージル」 そのシグナムの言葉にバージルは思わず声を上げる、これ以上この痛みには耐えられない。 「……黙れ」 それでもシグナムの言葉は続き容赦なくバージルの心を抉る。 「許して…くれ」 遂に激昂したバージルは地に倒れ伏したシグナムに駆け寄るとあらん限り吼えた。 「黙れええええええ!!!!!」 だが魔王の咆哮は無駄に終わる、彼女の瞳は既に生命の光を失っていた。 「烈火………死んだ…のか…」 「うあああああああああああ!!!!!!!」 烈火の将の死に魔王は濁流の如く溢れる激情に駆られ涙を流しながら天に吼えた。 大地に魔王の涙が落ち、天に魔王の慟哭が響く。 こうして彼は本当に全てを失う。 絶対最強の力と引き換えに得たのは未来永劫に終わることなき悲しみと絶望の世界。 その世界に救いなど欠片もありはしなかった 終幕。 前へ 目次へ 次へ
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SS作成方法 このページではダンゲロスSSドリームマッチに投稿するSSの作成方法・内容の指針を説明します。 作成するSSの「お題」大枠について 今回のゲームでは、参加キャラクターは対戦相手と勝負をし、勝利を目指すことになります。対戦相手を自慢の特殊能力を利用するなどして打ち倒し、戦いを制しましょう! 基本的には魔人同士の能力バトルを推奨しますが、勝負であれば他の方法で勝負しても構いません。 ゲームの世界観については概要・基本設定をご確認ください。 作成するSSの「お題」対戦相手・舞台について キャラクター募集が終わり次第、チーム毎の掲示板で順番を決め、その順番で試合組み合わせが決定されます。 試合場は対戦者の希望とDPを鑑みて決定されます。 試合場の詳細については地形をご確認ください。 SSの募集と公開の順序 試合の組み合わせは勝負の順番が早い方から公開され、SSの募集もその順に始まります。 SSの公開は執筆期間が終了した順に行われ、 各二週間ずつ投票期間が設けられます。 作成するSSの「お題」試合のルールについて ゲーム内の試合で規定されている勝利条件は以下の通りとなります。 ・対戦相手の殺害、降参、または戦闘領域離脱 この条件を守っている限り、反則行為は一切ありません。 プレイヤーは以上のルールを把握した上で自分のキャラクター、相手のキャラクター、試合場の設定を踏まえつつ、(基本的に)自分のキャラクターが試合に勝利するSSを書いて投稿してください。 作成するSSの内容について ゲームシステムとしてはチーム戦ですが、設定としては個人戦です。基本的には同じチームの各キャラクターに繋がりはありません。 キャラクターの設定や能力の応用方法について、キャラクターの設定欄に書かれていないことであっても、後づけで設定を足すことは(それが相手キャラクターに関することであっても)可能です。もちろん無理な後づけは読者を納得させるだけの説得力を持たせる必要があるでしょうから、十分に注意しましょう。 SSは試合のみを書く必要はありません。試合の前後を膨らませてもよいでしょう。ただし、あまりにも長すぎるものは読者が途中で読むのをやめる可能性があるので、十分に注意しましょう。 四人戦SSの内容について プレイヤーの所属チームという観点では2対2となる四人戦ですが、SSの内容としては基本的にバトルロイヤルで一人が勝ち上がるSSを書いてください。 敵チームのキャラクターを一人以上出せば、四人全員をSSに登場させる必要はありません。 幕間SSについて 試合のSSだけでなく、試合外での参加選手同士の交流や、自分の(場合によっては相手の)キャラクターの設定を深める幕間SS(補足SS)を作成するのもよいでしょう。 幕間SSはダンゲロス掲示板に立てた専用の幕間SSスレッドに書きこんでください。 幕間SSに投稿期限はありません。好きな時に書きこみましょう。 幕間SSで事前に書いた設定を使って試合SSを作成するのもよいでしょう。 SSが出来上がったら SS投稿期限内に作成したSSを投稿しましょう。投稿方法は次のページ【SS投稿方法】をご確認ください。 SS投稿期限を過ぎた場合、失格となります。十分にご注意ください。
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魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 番外編 Bad End(前編) これは魔剣士が選んだ筈のもう一つの選択肢。ありえた最悪の未来。 闇の剣士がミッドチルダを去る時間がほんの少し早ければ訪れたであろう世界の姿。 「は~まったく退屈だぜ…」 赤いコートを着た銀髪の男は手にした最後のピザの一切れを食べながら呟いた。 男の名はダンテ、伝説の魔剣士スパーダの息子にして最強の悪魔狩人である。 先日のダンテの兄バージルが起こしたテメンニグルの事件により彼の店は半壊し、まだ名前も決まっていない彼の店は開店前からひどいありさまとなった。 「まだ店の名前も決まってねえのに、何で借金だけこんなに増えんだろうな…まったく」 ダンテはそう愚痴を漏らしながら今日も仕事の依頼を待って昼寝としゃれこもうとした。 だが徐々に店に近づく懐かしい気配と魔力、そして大気を満たす殺気を感じたダンテは即座に愛銃“エボニー&アイボリー”に手を伸ばした。 その瞬間、壁の向こう側で魔力が急速に膨れ上がり抜刀の鍔鳴りが響き突如として空間ごと斬り裂く魔力の斬撃“広域次元斬”がダンテに襲い掛かる。 「がはあっ!!」 ダンテは転がって回避するも脇腹に肩と足を計8箇所深く斬り裂かれる。 だがそれで終わるダンテではない、彼は転がりながら壁越しに敵の気配に向かって銃弾を叩き込んだ。 壁越しに銃弾を叩き込まれたその敵は飛来する弾丸の全てを手にした妖刀で弾き落とした。 ダンテの知る中でこんな芸当が出来るのは一人しかいない。 「俺が恋しくてあの世からカムバックか? 死人にしちゃ随分と元気そうだな」 「生憎と一度も死んだ覚えは無い」 「そいつぁ失礼。じゃあ俺の勘違いか」 ダンテの店のドアを悠々と開きながら入って来たのは、手に閻魔刀を持った半魔の剣士にして彼の兄バージルである。 ミッドチルダを離れたバージルは今、長年の宿願である父スパーダの力を得るためダンテからフォースエッジとアミュレットを奪いにこの場所に来たのだ。 ダンテは先のバージルの攻撃で受けた傷から溢れた血を拭いながら窮地にもかかわらず軽口を叩いた。 「それで何の用だいバージル? 俺ん所にゃ今トマトジュースも無くってな~、大したオモテナシはできねえぜ」 「決まりきった事を聞くなダンテ。おとなしくフォースエッジとアミュレットを渡せば命は奪わんぞ」 ミッドチルダの魔法知識や魔力操作を習得したバージルの力は以前と比べられない程に強大になっていた、それを漠然と感じるダンテだがそんな事で引く彼ではない。 「欲しけりゃ力ずくで奪いな…」 「そうか…では奪うとしよう」 バージルはそう言いながらデバイスと閻魔刀の二つの刃を翻す、そしてこの言葉は兄弟の最後の会話となる。 そして数時間後、後にデビル・メイ・クライと名の付く“筈”だった店には赤いコートを着た半魔の悪魔狩人の屍だけが残っていた。 魔界にはひどく若い王がいた。彼はある日突如として現われ、伝説の魔剣士スパーダの力を持って魔界の絶対支配者であった魔帝ムンドゥスを滅ぼしたのだ。 彼は自分に楯突く上位悪魔の多くも殺し尽し、瞬く間に魔界最強の地位を手に入れ新たなる王と成った。 彼は自分の名をこう言った“魔王ギルバ”と。 そして王の前で決して言ってはならない言葉がある、彼の前でその言葉を口にすれば瞬きする間も無く殺されるだろう。 その言葉は“半魔”新たなる魔界の王は人間の血を引いているというのだ。 新たなる魔界の王、それはダンテを殺しスパーダの力の全てを得たバージルの現在の姿だった。 魔界の一角に佇むかつての支配者魔帝ムンドゥスの作った純白の居城、その魔界には似つかわしくない白亜の宮殿の奥深くに玉座に若き魔王は腰掛けていた。 それは若き魔界の新たなる支配者、ギルバの名を名乗るバージルである。 全身を黒装束に包み、その深い闇色の服に良く映える輝く銀髪をオールバックに整えた姿はまるで彼の父スパーダの在りし日を彷彿とさせる姿だった。 魔王となったバージルは手にしたグラスを傾け魔界産の果実酒をその杯の中で揺らしながら静かに呟く。 「…退屈だな」 魔界の王者となり絶対最強の頂に立ったバージルだが今の彼にあるのは延々と続く退屈な時間だけだった。 名立たる上位の悪魔はムンドゥスを倒した際に殺した為、バージルの闘争欲求を満たすような猛者はもう魔界には一人もいないのだ。 戯れに戦闘力を強化された悪魔を作り出しては戦いを行っているがどんなに強化された悪魔でもバージルの圧倒的な力の前には成す術もなく彼を満足させるには至らない。 だからといってムンドゥスのように人界を支配する気など毛頭無く、彼は無限の力と時間を持て余していた。 こんな時、何故か彼の脳裏を過ぎるのはかつてミッドチルダで機動六課の人間達と共に過ごした日々だった。 自分を師と仲間と慕った者たち、特に烈火の将の二つ名を持つベルカの騎士と自分を兄と呼んだ幼い少女の姿が思い起こされる。 ミッドを離れて何年経つのか、バージルは彼女の事ばかり考えていた。 かつて死合いにおいて自分を熱く燃え上がらせた誇り高き女の騎士を。 (あの女は……烈火は今頃どうしているのだろうな…) 虚ろ気な眼差しで手のグラスを弄ぶバージルは近づいて来た気配に声を掛ける。 「何か用か…」 「はいギルバ様」 それは輝く金髪を持つ美女にして人間体の悪魔、かつて魔帝ムンドゥスがダンテを惑わす為に作った悪魔であり今では新たなる魔界の王に仕える側近。 その名を“トリッシュ”と言った。 「この魔界に隣接する世界へ人間の戦船が近づいています…」 トリッシュはそう言うと魔力で作り出した巨大な鏡に映像を映し出す、それは宙に浮かぶ巨大な人造の戦船だった。 「ほほう~これは“聖王のゆりかご”じゃなあ」 その映像をつまらなそうに眺めるバージルの前にまた別の悪魔が現われた、それは三つの老人の頭が繋がったような巨大な人面の悪魔“トリスマギア”数多の知識を持つ魔界の賢者である。 「トリスマギア、知っているのか?」 バージルのさして興味も無さそうな質問にもこの魔界の賢者はひどく嬉しそうに笑いながら答えた。 「ええ勿論知っていますギルバ様。これはとある人間の世界の文明、古代ベルカの王族の用いた戦船ですぞ」 ベルカ、その懐かしい名前にバージルは手にしたグラスを僅かに震えさせた。 「ベルカ…か」 「そういえばギルバ様は人界の魔道に詳しいのでしたなあ、確かに我ら悪魔の使う魔力の技よりは効率が良い術理ですからな。 しかしワシの記憶が正しければ、この船は数百年前に地の底に埋まった筈なんじゃがなあ…」 バージルは手のグラスを唐突に放り投げ、床に果実酒の鮮やかな赤を撒いた。 「まあ退屈しのぎにはなるか……」 若き魔王は玉座から立ち上がると、久しぶりに現われた退屈しのぎに向かって歩き出した、 それがどんな再開をもたらすかも知らずに。 とある世界の空に浮かぶ古代の戦船聖王のゆりかご、その船の姿を巨大な大鷲の悪魔の背に乗った魔王が眺めていた。 「あれが、ゆりかごか…」 「如何致しますかギルバ様?」 静かに呟くバージルに彼を乗せた大鷲の悪魔“グリフォン”が口を開いた。 この悪魔はかつてムンドゥスに仕えていた上位悪魔だったが魔界に来たばかりのバージルに倒され今では彼の従順な僕の一人である。 「では向かうとしよう……行け」 「畏まりました」 バージルの命を受けたグリフォンは雷撃を身体の周囲に纏い最高速度で聖王のゆりかごの上空へと羽ばたく。 ゆりかご上部へと舞い降りたグリフォンの背中からバージルはその金属製の外殻に足を下ろした。 「グリフォン、貴様はもう下がれ」 「はっ」 バージルはそう言ってグリフォンを下がらせた、これからこの場が自分の猟場になる以上は他の悪魔は邪魔だったのだ。 「さて、どんな歓迎をしてくれる人間?」 バージルはゆりかご上部で腕を組んで相手の反応を待つ。出来れば暴力的な対応をされる事を望んだ、それなら少しはこの空虚な心を潤すことが出来るだろうと考える。 そのバージルの目の前に魔法陣が展開し黒衣の司祭服を着た男が現われる、左右で色の違うオッドアイの不気味な眼光を放つ背徳の司祭アーカムである。 久方ぶりの再開を果たしたかつての協力者の間には禍々しいまでの魔力と殺気が渦巻く。 最初に口を開き沈黙を破ったのはアーカムだった。 「まさか、そちらから来て頂けるとは思ってもいなかったよ…魔界の新たなる魔王殿」 バージルは愉快そうに僅かに笑みを浮かべた、アーカムならば少しは手応えのある敵を連れて来ているだろうという憶測が刺激に飢えた魔王の心を潤す。 「随分と面白い玩具を手に入れたようだなアーカム、魔界に旅行にでも来る気か?」 「その通りだ、魔王ギルバの力を奪いにね……さあ君の得たスパーダの力を頂こうか」 そのアーカムの言葉と共にアーカムは身体を異形の悪魔へと変え、その周囲に使役悪魔と大量のガジェットドローンそして戦闘機人の軍勢が現われる。 悪魔の身体をへその身を変えたアーカムがその醜い顔を歪めて笑う。 自分の得た悪魔の力と従える軍勢なら例え魔剣スパーダを持つバージルが相手でも勝てると考えるが故の余裕だった。 「しかし残念だねえ、何年か早ければ聖王の器も参戦させれたのに…」 「聖王の器?」 「ああ…君にはヴィヴィオと言った方が分かるかな?」 「ヴィヴィオ……だと?」 その言葉に一瞬バージルの鼓動が跳ねた、かつて自分が見捨てた少女の面影が脳裏を過ぎる。 そのバージルにアーカムは言葉を続けた。 「君はあの時もう気付いていたかもしれないがあの娘は我々にとって重要な個体でねえ、このゆりかごを起動させる為の古代ベルカ王族のクローンだったのさ…」 「………」 その言葉に思わずバージルは目を見開いた、アーカムの言う事が正しければヴィヴィオはまだ生きているのだ。 敵の手に落ちたあの日、もう生きてはいないと諦めた少女の儚い命はまだ紡がれていた事に胸が僅かに熱くなる。 「だがゆりかごのシステムは改造されてあの娘も用済みになってしまってねえ…」 アーカムはひどく愉快そうに醜貌を歪め、牙の並ぶ口を大きく開けて笑いながら言った。 「…だから悪魔の餌にしてしまったよ」 そのアーカムの言葉が放たれた次の瞬間、バージルの手には別異層の次元より引き抜いた最強の魔剣スパーダが握られていた。 それは二つのアミュレットが魔剣フォースエッジと融合した究極の魔剣士の剣である。 そしてスパーダを構えたバージルは全身から大気や空間が歪むような魔力と殺気を立ち上らせながら静かに口を開いた。 「……死ね」 バージルが凄絶なる眼光と共に小さくそう呟くと同時にその場のいた全ての者は魔剣のもとに刻み尽くされ、聖王のゆりかごもまた幾重にも斬り裂かれ数多の瓦礫となって空に散った。 続く。 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 第十話「闇の剣士の離脱」 「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょううう!!!!」 ここはスカリエッティの地下研究所、足元を涙と血で染め上げ泣きながら壁を殴り続ける赤い髪の少女、ナンバーズ9番ノーヴェは声を張り上げ獣のように叫ぶ。 「もうやめるっすよ、ノーヴェ…身体の修理だって終わったばっかりなのに…」 見るに見かねて彼女を気遣い言葉をかけるのはナンバーズ11番ウェンディ、先のバージルとの戦いでナンバーズはチンクを管理局に奪われセイン・ノーヴェ・ディードは重度の損傷を受けた、そしてノーヴェは先ほどその修復作業を終えたばかりだった。 「約束したんだ…」 「えっ…約束?」 「チンク姉を守るって約束した…約束したのに!なのにあたしは何も出来なかった!あいつに手も足も出なかった!」 「そんな事…しょうがないっすよ、ゼストさんだって勝てなかったのに…」 スカリエッティに調整された人造魔道師ゼストもまたバージルに敗れ、今はルーテシアとアギトに見守られながら傷の治療を受けていた。 「そんなん関係ねえ!」 ノーヴェは涙を流し続ける瞳でウェインディを睨む、あまりの気迫にウェンディは言葉を失う、そんな二人の下へ静かに手を叩く拍手の音が足音と共に近づく。 「素晴らしい実に素晴らしい、美しい家族愛だ」 毛髪の無い頭にオッドアイの男アーカム、スカリエッティに“悪魔”という未知の魔法生物の知識と存在を教え、バージルの関係者であった事意外はナンバーズも詳しくは素性を知らない謎の男だった。 「なんだ!つまんねえ事言ってんなら、ぶっ殺すぞ!」 凄まじい気迫の涙交じりの瞳と声で突如現れたアーカムに吼えるノーヴェ、アーカムは意に介さず懐から何か小さな物を取り出す。 「そう気を立てないで頂きたいな、姉を思う君に“力”を進呈しようと思っただけだよ」 「…ちから?」 「そう“力”だ、君に家族を救い出せる力を差し上げよう」 ノーヴェにそう言うとアーカムは、願いを叶える魔の宝石、Ⅶの数字を刻まれたジュエルシードという名のロストロギアをノーヴェに差し出す。 二人のやりとりをウェンディは一歩退いて見つめていた、ウェンディの目にはアーカムの姿が、甘言で人を惑わす悪魔に見えた。 ガジェットに戦闘機人、数々の未知の敵戦力の襲撃、管理局地上本部は成す術もなく、大した抵抗すら見せることが出来ずにその名に泥を塗る。 しかし機動六課の魔道師が襲撃犯の一人を確保した事により最低限の体面をなんとか保っていた。 六課は襲撃によりギンガとヴィヴィオを奪われ、隊舎を破壊され隊員の多くが負傷した、部隊長のはやては半壊した隊舎の代わりとして新拠点の確保に奔走していた。 新たなる六課の拠点として、幼い頃の縁深い次元航空艦アースラを得ようとヴェロッサの助力により上へかけあったが、予想に反して二つ返事で了承を取り付けられた。 皮肉にも以前はやてが否定した殺傷設定での交戦により得た、犯人の身柄確保が評価された結果であった。 「随分と沈んでるね、はやて」 場所は時空管理局本局、改修作業を受けるアースラを見つめるはやてにヴェロッサが声をかける、はやては一瞬顔を彼に向け、またアースラに目を移す。 「なあロッサ、私ってやっぱり甘いんかな?」 「甘い?」 「バージルさんが殺傷設定で戦うのを頭では理解できる、ヴィータとリィンを倒した融合騎に加えて戦闘機人を相手に手加減なんて出来へん…それでも殺す気で戦うのを肯定したくないって思ってる」 「…はやて」 「部隊長失格やね、そのお陰で新しい部隊の拠点かて手に入っとるのに」 「…その気持ちがはやての本心なら僕は否定しないよ」 自分以外の命が奪われる事に臆病なはやてをヴェロッサはあえて励ました、そう言わなければきっと今の彼女は立っていられないと考えたから。 敵と味方の命を天秤にかけるような選択、はやての心を容赦なく磨り減らすが、きっと彼女は目に映る全てを救おうとする敵も味方も…自分の命に代えてでも。 (相変わらず生き急いでるなはやて…心配するこっちの身にもなって欲しいよ) 二人はアースラを前に今後の捜査方針や部隊運営について言葉を交え始めた、老いてなお飛ぼうとする古い翼に再び若き精鋭達が乗ろうとしていた。 バージルは酷く消毒の匂いの漂う場所をフェイトと一緒に歩いていた、そこは管理局の有する犯罪者専用の医療施設、向かうのは確保された戦闘機人ナンバーズ5番チンク。 スバルのIS振動破砕とバージルの凶刃に倒れたチンクの傷は生きているのが不思議なほどであったが、迅速な処置によりなんとか一命を取り留めた。 そして数日ぶりに意識を取り戻したチンクから執務官のフェイトが事情聴取を行う事になったのだが、チンク本人からバージルが同席してくれれば自分の知る全てを話すという取引条件を出したのだった。 こうして二人は施設の医師に案内され、施設内の特に重症の者が収監されている一角に足を進めていた。 「それで被疑者の容態はどうなんですか?」 フェイトが歩きながら、自分たちを案内する医師に質問をかける。 「容態ですか…生きてはいますが、まあ一生まともに歩くことはできないでしょうね、脊椎に直接魔力を流されていましたし」 「…そうですか」 医師の飾らない残酷な言葉に顔を悲しみに歪めるフェイト、例え犯罪者だろうと憐憫の情を抱かずにはおけない、優しい彼女らしい姿だった。 しばらく歩き続けた二人が最後のセキュリティを通り病室についた、そこには様々な医療器具からチューブを繋がれた小さな隻眼の少女が横たわっていた、フェイトはその痛々しい姿に、かつて空から落ちた親友の事を思い出す。 「見苦しい…姿で…申し訳ありませんね…」 最初に口を開いたのはチンクであった、フェイトは慌てて挨拶を入れる。 「初めまして、時空管理局執務官フェイト・T・ハラオウンです」 「戦闘機人…ナンバーズ…5番チンクです…」 「挨拶はいい、それで俺をわざわざ指名した理由はなんだ?」 フェイトとチンクの会話にバージルが割って入る、本来なら執務官でない自分が呼ばれる必要が無いからだ。 「ご足労…感謝します…あなたに頼みがあったものですから」 「頼み?」 「はい…あなたがもし…この先、私の姉妹と戦うことになったら…」 チンクは必死に顔を起こしチューブで繋がれた身体をバージルへと向ける。 「…命だけは…奪わないで頂きたい」 「何?」 「もし…聞いて頂けるなら…私の知る全てを話します…どんなことでも従います…」 「姉妹か、お前ら作られた者に血の繋がりなどあるまい、血の繋がらぬ者の助命に命をかけるつもりか?」 「バージルさん!」 バージルのあまりの言い様に思わずフェイトが口を出す、彼女にとって人造生命というモノは過敏に反応せざるをえない話だった。 必死の懇願を冷めた目で見下ろしながら返したバージルの質問にチンクは口を開く。 「いえ…例え血の繋がりなど無くても…あの子達は私の家族ですから」 「わかった、考えておこう」 「ありがとう…ございます」 バージルの言葉に肯定の意を読んだチンクは微笑んで礼を述べる。 「聴取に俺は必要ないだろう、先に外で待つぞテスタロッサ」 バージルはフェイトに一言残して部屋を後にする、その後チンクからスカリエッティの研究所の場所と予測される座標及びナンバーズや召喚可能な悪魔の能力がフェイトに話された。 聴取を終えた二人は、はやてたちの下へと戻る、そこでスバルの父ゲンヤにクロノ、カリムを交えて戦闘機人事件やスバルの出生が語られた、全員が話を聞き終えて席を立つ中でバージルにクロノが個別回線を開いて通信を入れてきた。 「バージル・ギルバ、君に少し話がある」 「偽名で呼ぶなと言ったろうがハラオウン、で何だ?」 「ああ、実は君の出身世界の件で調査が……」 はやては隊長陣を集めアースラが新たなる基地となる事、そして今後の六課の方針について説明をしていた、はやての話があらかた終わった時バージルが部屋へと足を踏み入れる。 「あ、バージルさん」 はやてが声をかけ、その場の全員の視線が彼へ集まる。 「八神、話がある」 「なんですか~もしかして求婚とか?」 はやてが軽い冗談を飛ばすがバージルは表情を変えずに答える。 「まあこれだけ揃っていれば手間が省けるだろう、実はここを出ようと思ってな」 「……えっ?それって…どういう」 バージルの言葉を一瞬理解できずはやては唖然として聞き返す。 「機動六課を抜けるという事だ」 「…な、なんでそんな…」 「ハラオウンが俺の出身世界を見つけたらしいからな、必要な魔法知識はおおよそ覚えた以上もうこの世界に用は無い」 バージルは狼狽するはやてに相も変わらぬ冷たい答えで返す、なのはとフェイトは驚愕に顔を染めヴィータは激しい怒りを示す、一人シグナムだけは冷静な表情でバージルを見つめていた。 「そんな…バージルさん、ヴィヴィオはどうするんですか!?きっと私達の助けを待ってるんですよ!」 なのはが思わず声を荒げる、そんな彼女にバージルは一番残酷で心を抉るような言葉で返す。 「高町、お前はあの娘がまだ生きていると思っているのか?」 「えっ…」 「敵が何の目的で奪ったかも知れないのだ、どんな実験や利用をされているかも分からんのだぞ」 「…そ、それは」 「もはや、生きていると考えるのはただの希望的観測でしかないと考えんのか?」 「そ…そんな…事…」 「下手な希望など持たない方がよほど楽だぞ、失うものが大きい程にな」 バージルの言葉になのはは堪えきれずに涙を流し始める、フェイトは何も言えずそんななのはを見つめる、バージルの言葉はあまりにも残酷だが事実でもあったから何も励ます言葉など出なかった。 そんななのはを見てもバージルは何事もなかったように部屋を出ようと踵を返した。 「そうかよ、用が済んだら“サヨウナラ”かよ!仲間なんてどうでもいいのかよ!!」 なのはの様子に怒りを抑えきれなくなったヴィータがありったけの感情を込めて吼えた、しかしそんなヴィータにも彼は顔だけ向けて冷たく返す。 「別に俺はお前たちの仲間などになった覚えは無いぞ、鉄槌」 「な、なんだよ…それ」 「お前たちに力を貸したのは唯の契約だ、八神とのな、しかしそれも十分果たしただろう…それでは世話になったな」 あまりに冷たい言葉にヴィータは唖然とし、その顔に怒りだけでなく深い悲しみも落として身体を震わせた。 バージルはそう言うと、驚きと悲しみに震えるはやて達を残して部屋を後にする、しかしそんな彼にシグナムは他の者に悟られぬように個別に念話を送っていた… バージルは半壊した六課宿舎で少ない自分の荷物の中から最低限の物を整理していた。 「バージルさん!」 よく通る声が響き、バージルの前に痛々しい傷を引きずってスバルが現れる、バージルが六課を去ると聞いて病院を抜け出して来たのだった。 「何だナカジマ」 「その…六課を出てくって…本当ですか?」 「ああ」 「そう…ですか」 バージルは小さな鞄に荷物を詰め終えるとスバルの横を通り過ぎ、部屋を後にしようと足を進める。 「あの…バージルさん…その」 立ち去るバージルの背中にスバルは必死で言葉を紡ごうとするが上手く口から出ない、しかし先に口を開いたのはバージルだった。 「ナカジマ、一つ聞いていいか」 「えっ?は、はい」 「お前は先の敵と同じ、戦闘機人だそうだな」 「えっと…その…はい」 「お前は憎くはないのか?」 「憎い…ですか?」 「自分と同じ存在に母を殺されて、他の戦闘機人が憎いと思ったことはないのか?殺してやりたいとは考えなかったのか?」 スバルの出生の秘密と彼女の母クイントの死の原因である戦闘機人事件の話を聞いたバージルは、スバルとの最後になるだろう会話にて胸中に湧いた疑問を口にした。 「それは…たぶん昔は感じたかもしれないです…」 悲しそうな顔をして母の喪失の過去を思い、スバルは顔を伏せて言葉をかみ締める。 「でも…きっとお母さんはそんな事を望んでないから…それに…」 言葉を紡ぎながら顔を上げたスバルは今までバージルに見せた中で最高の笑顔で彼に答えた。 「私は魔法を…泣いてる誰かを助ける為に使っていきたいから」 「……そうか」 小さく呟くとバージルはそんなスバルから目を背け、その場を去ろうと歩き始める。 「バージルさん…あの…今までありがとうございました!!」 「…ああ、達者でな」 スバルは立ち去るバージルの背中に頭を下げた、バージルは静かにその場を去り姿を消した、しかし彼が向かったのは宿舎出口でなく半壊した宿舎の屋上であった。 「時間を取らせて悪いな」 「気にするな、まだ本局での転送ポートの使用には数日は間がある」 屋上でバージルを迎えたのはシグナム、隊長陣との話の際に念話を送りバージルを宿舎屋上へと呼んだのだった。 「それで俺に何の用だ、お前も高町らのように俺を止めるか?」 「そんな事は言わん、ただ聞いておきたい事があってな…バージル、お前が我々に力を貸したのは魔法知識を得るための契約だと言ったな…」 「ああ、それ以外には無い」 シグナムはバージルの瞳に物憂げな視線を投げかけて尋ねる。 「バージル…お前は何故そこまで力を求める?何がお前をそこまで駆り立てた?」 「下らんことを、ただ俺の魂がこう言っているのだ、もっと力を…とな」 バージルの空虚でどこまでも冷たい目を見たシグナムは怒りの混ざった眼差しで見据え、彼に一歩近づいて吼えた。 「違うっ…私が聞きたいのは“お前をそこまで駆り立てた”根源の事だ」 「…何?」 「バージルお前は、一体…」 そしてシグナムは、まるで心の奥底まで見透かすような澄んだ瞳で彼を見据えて、言葉を投げかけた。 「…かつて何を失った?」 その問いはバージルと何度も剣を交え、六課の誰より彼を理解していたシグナムだから言える問いかけだった。 その言葉にバージルは鼓動と心を震わせる、頭を過ぎるのは母を失った過去の記憶、そしてその時感じた力への渇望。 「知った風な口を聞くな…」 「お前は何を守りたかった?」 「………黙れ」 「何を取り戻したかった?」 「………黙れ」 「バージル…守れるのは、取り戻せるのは“今”だけだ」 「黙れっ!」 シグナムの投げかけた心の奥を見透かすような言葉にバージルは初めて激昂の感情を見せる、そして彼女の首筋に閻魔刀を突きつけた、しかしシグナムはその閻魔刀の刃を素手で掴み力の限り握り締めた。 「なっ…」 「弱いなバージル…今のお前が振るう閻魔刀では、虫一匹殺せはせん」 閻魔刀はかつてスパーダが振るった意思さえ持つ魔を喰らう妖刀である、本来ならシグナムの手は前腕ごと二つに裂かれてもおかしくない筈だった。 しかし、その閻魔刀の刃は動揺の波紋を広げるバージルの心に斬れ味を落とし、シグナムは掌を裂かれて血を流すだけに止まる。 「そうやって魔と闇に溺れ力を求め続けるのか!?自分を仲間と、家族と慕った者から目を背けるのか!?」 「ああそうだっ!力が得られるなら身も心も全てを魔と闇に浸してやる!!それにお前らなど仲間でも家族でもない!!!」 二人は額がぶつかるほどに顔を突き合わせて吼え合う、流れる血を気にも留めずシグナムは瞳に烈火の怒りを宿し閻魔刀を握る手にさらに力を込める。 「自分の心まで偽るのか…私に飾るなと言ったのはお前だぞバージル!!人の心まで捨てるか!!」 「勝手な事をほざくなっ!俺は悪魔だ!人などではない!!」 シグナムはバージルのその一言に先ほどの燃え盛る炎のような怒りから、深い悲しみに沈み、涙さえ流しそうな瞳で彼を見つめる。 「何故そこまで私達を拒む…何故そんな悲しい事を言う……おまえ自身がなんと言おうと、お前は私達の仲間だ、そしてお前は人間だバージル…不器用で弱くて強い…優しい人間だ」 「黙れええええ!!!!」 その言葉と共に周囲に幻影剣が展開されシグナムを貫いた、その数40本以上、非殺傷設定にされてはいたが過剰な高出力の魔力設定で射出され、体力の無い者ならショック死しかねない威力であった。 しかし、シグナムはバリアジャケットも防御障壁も展開せずにその魔力の刃を全身に受ける。 衝撃で六課の制服は所々が裂け、本来なら白く美しい彼女の肌が見える筈だが、見えたのは高度の魔力ダメージで赤く腫れ上がった痛々しい肌だった。 「くっ…この…」 常人なら意識を保っていられない痛みと魔力消費、シグナムは閻魔刀の刃を手放しながらも、震える膝を制してバージルの瞳を見据える。 「…馬鹿者…」 シグナムはその言葉と共に弱弱しい拳でバージルの頬を殴りつけ、遂に気を失って彼の胸に倒れこんだ。 その拳は今までバージルが彼女から受けたどんな攻撃より熱く痛かった。 そして闇の剣士はこの世界で得た、仮そめの仲間と家族と温もりを捨てた。 続く。 前へ 目次へ 次へ
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SS投稿方法 このページではダンゲロスSSドリームマッチに投稿する、SSの投稿方法について説明します。 SS投稿先 SSはGK(ゲームキーパー/ゲーム進行役)宛にWebメールで直接送信してください。 アドレスは以下の★を半角アットマークにしたものです。 ssteam723★gmail.com 投稿は下記の【テンプレート】を必ず用いるようお願いします。 ただし【本文】に関してはテキストファイルなどでメールに添付して送っていただいても構いません。 ※ファイルで送る場合は、txtファイルを推奨します。wordファイルでも構いませんが、中央揃えなどの書式の反映は行いません。 本人が書いたか否かにかかわらず、幕間SSで起こったことを踏まえた投稿が可能ですが、すべての投票者が幕間SSに目を通すわけではないので、 一体どの幕間SSを採用したのか その幕間SSで重要なこと(一行程度) をテンプレートに沿って明記してください。採用していない場合はテンプレートの採用する幕間SS欄を空白のままで提出していただいて構いません。 投稿されたSSには、一日以内にGKが確認メールを返信いたします。 深夜に投稿されたSSに関しましては、特に返信が遅くなるかもしれませんが一日以内には返信致しますので、慌てずお待ちください。 一日以上経過しても返信が返ってこない場合は、SSドリームマッチ本スレにご連絡ください。 SSの投稿時間も、この返信内容で確認可能です。 (投稿時間は、同数得票の際のルールにのみ関係します。詳しくはこのページの下にある【同数得票について】をご確認ください) テンプレート 件名:【SSドリームマッチ本戦SS】【キャラクター:○○】 本文: ◆ハンドルネーム ◆採用する幕間SS ○ () ◆本文 記述例 件名:【SSドリームマッチ本戦SS】【キャラクター:サンプルキャラクター】 本文: ◆プレイヤーA ◆採用する幕間SS 7 (壊れた運動靴の代わりに長一郎のメロンパンをもらう) 11 (山田とライバル化) ◆本文 あーだこーだして私が勝ちました 本文について 本文の文字数の長短に制限はまったくありません。 しかし、長さの加減がわからない方は、1万字程度を目安にしていただければ、作者・読者の双方にとって負担が少ないでしょう。 過去のダンゲロスSSに投稿された試合SSを参考にするのもよいでしょう。 ダンゲロスSS1試合SS ダンゲロスSS2試合SS ダンゲロスSS3試合SS ダンゲロスSSR試合SS ダンゲロスSS4試合SS ダンゲロスSSRace試合SS ダンゲロスSS裏Race試合SS 内容修正について 投稿されたSSは、各試合毎に公開されます。 投稿期間中であれば、SSの追記や修正は自由に行うことが可能です。 ただし、些細な誤字や言い回しの修正でも、そのSS投稿時間はその追記が投稿された時点として扱うことになります。(投稿時間は、同数得票の際のルールにのみ関係します。詳しくはこのページの下にある【同数得票について】をご確認ください) 最初に投稿したSSを破棄し、別のSSを投稿することも問題ありませんが、こちらについての投稿時間の扱いも、上と同様です。 イラストの投稿について 以下のルールを守った上であれば、イラスト投稿も可能です。 投票期間中は、試合SS以外の内容で当該試合の投票数が左右されることのないよう心がけてください。 投稿SSとしては受け付けません。 投稿SSの挿絵は投票期間が過ぎてから幕間スレッドに投稿してください。 それ以外のイラストに関しては、自由に投稿可能です。 ただしSSがメインのキャンペーンであることは念頭に置いてください。 SSをGKに投稿する前・wikiで公開される前に別の場所で公開することについて 今回のキャンペーンでは禁止とさせていただきます。 遅刻時のペナルティについて 投稿期間を超過したSSは、その時点で失格となります。 参加者の皆さんは、可能な限り日程に余裕を持った投稿を心がけてください。 万が一遅刻したSSがあった場合は、そのSSは投票対象外となり、遅刻したSSであることを明記された上でwikiに公開されます。 同数得票について 投票結果が同数であった場合には、投稿の早かったプレイヤーの勝利となります。 SSの投稿を終えたら SSが公開されると投票期間となります。勝者判定等については次のページ【本戦投票】をご確認ください。
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